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1/31午後=ジョグジャカルタ(bakudapan/Kunci/Merawat, HONF)

この日のランチは、昨日北澤さんとお会いしたレストランのすぐ近くにあるジャワ料理やさんWarung Bu Agengへ。陽がだいぶ強くなってきて、大きな屋根の下、半屋外で休めるのが嬉しい。メンバーの2人がcat fish=なまずを注文し、運ばれきたボッシュの絵にでてくる黒い悪魔のような彼を見つけておののく。ジャワ料理、極限まで火を通す傾向がある??

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食後は、また車に乗って近くのKUNCIへ。ここはいろいろなコレクティブが入っているスタジオアパートメント的な施設。私たちはここでbakudapan、Kunci、Merawatというコレクティブのメンバーとまとめてお会いすることになっている。

bakudapanは8名の女性から成る「食」をテーマにした研究グループ。ダイレクトに食とケアの問題をテーマにしたプロジェクトもある。事前にzoomで一度面談をしていて、そのときも「研究」の色を強く感じた。国際学会で海外の研究者と話しているときのような、言語は違うんだけど専門用語を共有しているから妙に話が通じちゃう感じ(実際、そのとき面談してくれたのは人類学が専門の研究者だった)。もっと率直言うと、彼らはインドネシアで活動しながら、その活動を説明する言葉は完全にグローバルスタンダード、というか英米系の言説なのだ、という印象をもった。たとえば彼らは活動の中で読書会をしているらしく、そこでは、Joyful Militancyとか

Commoning Care & Collective Powerとかを読んでいると教えてくれた。せっかくなので私も行く前にパラパラ目を通してみた。

「楽しい闘争」とでも訳せそうな前者は、 アクティビズムの大変さ(不安になったり、好奇心がなくなったり、仲間割れしたり・・)を乗り越えてどう活動を継続するか、という本。同じ事前の面談で、bakudapanのメンバーは「疲弊」について話していた。ジョグジャカルタ特別州の政治や特殊で、王様が知事をつとめている、ゆえにトップダウンで物事が決まりがちで、アクティビストたちが無力感を感じがちであり、その疲弊をサポートすることが重要な課題になっているのだ、と。うーん、ケアを考える上でもサステナビリティは重要な論点だと思う。

後者は2011年に起こったスペインの市民運動15M(キンセ・エメ=5月15日)の中で生まれたチャイルドケアについての本。15Mについては、工藤律子『雇用なしで生きるーースペイン発「もうひとつの生き方」への挑戦』(岩波書店)に詳しいけど、「時間銀行」(自分がやったことの対価を、お金でなく「時間預金」で受けとる。その分また別の人に何かをしてもらえる)や「地域通貨」など興味深いたくさんの試みを生み出し、政治的にも2014年にポデモス党が結党さて、一時連立与党入りしていたが2023年に右派に敗北した。本の表紙に掲げられた自律と依存についてのエピグラフ"To be autonomous micht mean to know our connection and synergies, and to make powerful decisions about our interdependences, to walk a specific path with others. To be interdependent, on the other hand, might mean to know aour autonomy and from there to reach out to embrace out entanglements and connection."にぐっとくる。ポデモスジョアン・トロントによる序文つき。

さてさてKUNCIの建物はレンガ屋根の一軒家だ。庭にはパパイヤやらランブータン(毛の生えたライチみたいなやつ)など美味しそうな実のなる木が生えている。あとあちこちで見るコウモリラン(他の木の幹に着生するコウモリみたいな植物)。コウモリラン、かわいいよね。私も学生時代に部屋で育ててた。

20240215100332.jpeg建物に入ってすぐの土間的なスペースは、「Kunchi Copy Station」と名付けられ、リソグラフ、コピー機、壁に所狭しと貼られたポスター、そしてインクなどの機材や紙の山が。そう、ここはKuciに入居しているコレクティブたちの共同の印刷所なのだ。彼らは「出版」をすごく大事にしている印象で、たとえばbakudapanは雑誌も出している。できたてほやほやの火山についての本も並んでいた(後述)。

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印刷所の左手には、彼らが2021年に台湾で展示をしたときのバナーなどが。タイポグラフィがかっこいい。ちなみにbakudapanはYCAMでも展示をしている。

20240215101820.jpeg20240215101843.jpegそして室内は、本、本、本!室内全体がライブラリみたい。

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そして奥にはキッチンが。みんなで作業できそうな大きなテーブルもある。食のコレクティブだもんね。あとで、ここで切ったスイカを食べさせてくれた。

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そんなこんなで室内を案内してもらったあと、各コレクティブのメンバと訪問者われわれ、合計10名強でわいわいテーブルを囲んで話をうかがうことに。アクティビスト、映像作家、リサーチャーなど立場もさまざまで、バックグラウンドも人類学、心理学、アートなどいろいろ。パリなど国外にいるメンバーもいるらしい。Kunchiがスタートしたのは1999年ともう四半世紀もの歴史がある。bakudapanがスタートしたのは2015年。

cooking is careだと彼らは言う。それは「やらなければいけないことresponsibility」であると同時に「喜びをもたらすものであるaffection」という意味で。自分に子供がいたら、となりの子のためにも料理を作るのは自然なことだよね、と。でもこの両面があるからこそ容易に感情労働になってしまうことにも注意が必要だ。

そんな話をしていると、ある男の子が大きなモニターにつながったパソコンを操作し始める。彼が探していたのは、amae..そう、土居健郎の『「甘え」の構造』であった。私(というか日本の文脈では)ケアと甘えってあんまり結びついてなかったな、と思ったら、この本の英訳タイトルは The Anatomy of Dependenceなんですね。bakudapanのメンバーもすごいが土居先生もすごい。

じゃあgotong royongどう思いますか、という我々の質問に、グローバルスタンダートな彼らは「gotong royong はソーシャルキャピタル」と即答。ま、確かにそうですね…。

ただしCOVID-19のあいだ、彼らは一時gotong royongが嫌いになったと言う。なぜならこの言葉が、政府や王様が無策であることの言い訳として使われていたから(まずは「自助と互助」、「公助」は最後)。しかも、彼らが困窮する人に食糧を配布する活動をしていたら、警察が来て彼らを取り込もうとしたのだそうだ。

gotong royongは今は美化(romaticize)されている、と彼ら。gotong royongに搾取を隠蔽する構造がある。自分がどんな敵に脅かされいるのか、という自覚なしの相互扶助は、ある種の自己搾取になってしまうだろう。彼らにとってはgotong royong的な行い、careそのものがactivisimであることは、必要条件であるようだ。

(この間、雨がごうごう降り出して雷まで鳴る始末。さっきまであんなに晴れてたのに)

ただし、戦う的はみんな違う(政府、会社、近所の人...)。ならば、そのちがう戦いをしている活動家たちが疲弊しないように結びつけることが重要になってくる。bakudapanは「休みをとる場所」なのだと彼らは言う。

だから彼らにとってもっとも大切なのは「skill sharing」なのだ、と話してくれた。たとえばリソグラフをどうやって使うか、みたいなことから身近なことから始まって、「甘え」のような概念をみんなが戦いのツールとして使えるようにすることも一種のskill sharingなのだろうし、料理のレシピとかもそうなのかもしれない。(文脈を忘れてしまったのだけど、Valorised but not valued? Affective remuneration, social reproduction and feminist politics beyond the crisisという論文を教えてくれた)

帰り際、彼らがつくった本を購入。どちらも手触りがよくて装丁がかわいい。左の本は青いケースに入って、山のスケッチが描かれた銀色のシールが貼られている。printed matter好きにはたまりません。

20240215111953.jpeg右のテラコッタ色の本はインドネシア語で書かれていて、google翻訳によるとタイトルは『野生は希望を与える』。ジョグジャの野生植物の分布や料理のレシピが載っている。

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スカイブルーの箱入り本は実は火山の本。ジョグジャにはムラピ山という活火山があるのだけど、独立戦争中の1952年にGeorges de Neveというオランダ植民地で生まれたヨーロッパ人科学者がこの山についての調査をし、Berita Gunung Berapi(Volcano News)という雑誌をしているらしい。この雑誌は科学的な内容だけでなく詩なども入っていたようで、de Neveによれば、火山科学こそが、ポスト植民地を統一するのだ、と。今回の本はこのde Neveの雑誌にもとづいて作られたもの(表紙は当時と同じ)。火山だけでに全体的に文字が赤い...gotong royongの作品を作っていて、あとでジャカルタで一瞬お話しする機会のあったTita SalinaさんもIrwan Ahmettとの共著記事を寄稿してる。

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KUNCIをあとにし、ホテルに一瞬立ち寄ったあと、HONFのスタジオに。1999年に科学者・アーティストのコレクティブとしてスタートしたらしい。彼らの自己定義は「one who gets excited about no one care about」。2011年からは3つの部門に分かれて活動しているとのこと。smart farming systemで作ったお酒を飲ませてもらう。今の関心はもっぱら宇宙で、2019年からはNASA Singaporeと仕事をしているらしい。スペキュラティブデザインのようなアプローチに見える。宇宙関係の仕事は思ったより大規模そうだ。一方でQueer関連の活動をしているメンバーもいるらしく、ジャワのローカルな演劇には両性具有的な存在が出てくる(Moelyonoが絵に描いたものと同じかもしれない)が、LGBTQの概念が入ってきて、かえって混乱していると教えてくれた。

その後、ジョグジャの歴史がわかる王宮の博物館Sonobudoyo Museumに行き、ざっと展示を見る。いろんな形のクリス(剣)や中国文化と合体したワヤンクリなど。最上階はAR的な展示もあった。

夕食はご陽気なバンドの生演奏が聴けるレストランに。疲れていたけど、あたたかい牛肉のトマト入りスープを飲んで回復。長い1日、ホテルにもどってバタンキュー(アザーンに起こされませんように・・)。

(引用・転載禁止:筆者のメモと記憶で書いているので、事実と違う場合があります。悪しからず・・)