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7/13午前 ケソン市 バランガイ「パンソル」

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今日はバランガイを訪問。バランガイとはフィリピンの町内会組織で、インドネシアを訪問したときにRT/RWと言われる町内会組織が相互扶助(ゴトンロヨン)の実働部隊として重要な役割を果たしていたことから、今回の視察でも訪問先に加えてもらった。バランガイはフィリピンが来る前(1521年以前)からあったシステムで、もともとは「船」という意味。マレー半島からやってくるときに、一つの船に乗っていた人たちの集団をバランガイと呼んだらしい。

バランガイのサイズは30-100戸とのことで、インドネシアRTの40戸よりは大きいものが多そうだ。しかも、バランガイは物理的なオフィスがあったり、議会などの組織があったりするので、RTのような相互扶助というより統治機構という感じがする。バランガイの長=バランガイ・キャプテンの仕事は地方自治法典に定められていて、法律や条例の行使(内閣)、社会秩序の維持(警察)予算支出の承認(国会)、紛争の調停(裁判所)など、かなりの権力をもっている。紛争の調停に関しては、この日2つめに訪れたパヤタスのバランガイで、キャプテンの机の上に裁判官用の木製ハンマーが確かに置かれていた。

朝ホテルを出発してまず訪れたのはケソン市のパンソルと呼ばれるバランガイ。マリキナ川の西、アテネオ大学のすぐ北に位置する。2020年の調査で人口35,254人、面積1.48平方メートル。ここは先進的なバランガイらしい。

「P」の文字がちょい曲がったRTのそれよりかなり大きなゲートをくぐると、すぐにオフィスが見えてくる。隣は遊具の充実した三角公園で、おじさんが寝たり子供が遊んだりしている。公園の中に駄菓子屋が3軒くらいあるのが日本とは違う。

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オフィスは2階建で、1階のピロティでは女性たちによる料理コンテストが行われていた。決められた予算が渡され、その予算内で材料を買ってチームごとに料理を作るというもの。実はこのコンテストの裏では別室にこの女性たちの子供20名ほどが集められていて、child feedingが行われている。child feedingってすごい表現だなと思ったけど、子供たちにとって大のご馳走であるジョリビー(チキンとスパゲティ)を床に座ってがっついているのだった。つまりこれ全体が食糧配給をイベント化したものだということだ。平常時にも食糧の配給(アユーダー)を行っているそうだ。

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川が近いので減災の工夫や食糧備蓄などを行っている、という説明をうけたあと、2階のバランガイ・キャプテンの執務に通される。現れたキャプテンは、日焼けした肌に真っ白い歯が光る胸筋のぶあつい男性であった(54歳と言ってたけど40代に見える)。元は警察で働いていたそうで、ソファにどっかりと腰掛けたその姿、これまでにお会いしたフィリピン人とは明らかにオーラが違う。。。

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キャプテンの部屋は、とにかくチャートだらけだ。Children in Conflictのチャートでは、子供が15歳以上か15歳以下かにまず分かれ、15歳以上の場合には、どのような場合に家庭裁判所に送られ、どのような場合に監視下に置かれ、どのような場合に医療に送られるのかが場合分けされている。Conflictの具体例として想定されているのは、「非合法ドラッグ(マリファナ、シャブ)の使用」「ネグレクト」「非ケソン市民のストリートチルドレン」などなどだ。

このチャートが象徴しているように、パンソルのバランガイ・キャプテンは「秩序」を重んじる男である。彼にとってケアとはディシプリン(規律・しつけ)を与えることであり、「大事なのはpeace and order」なのだ。「(麻薬戦争のドゥテルテみたいに)我々は殺すことはしない」と歯を光らせながら笑うキャプテンは、自らがこのバランガイに与えているディシプリンの内容について誇らしく語ってくれた。

まず、驚くべきことにここのバランガイには門限がある(22時)。通りでの喫煙は禁止。葬式のときの賭け事も禁止。夜は室内でも大きい音は禁止。治安維持法?的な自由の制限された世界なのだが、こうでもしないと麻薬などの侵食を阻止できないということなのか?こういうことと、学用品の無料配布や、先の食料配給、割礼の公費実施(対象は9歳。レーザーで一瞬で終わるらしい)、減災対策など、彼らはケアと言うけれど管理にも近いようなことが、彼らにとっては地続きである。要するにこの徹底的な管理体制が「先進的」ということらしかった。これもまたケアなのか・・お金の流れはどうなっているんだろう・・きのうおじゃましたジムでの、いろいろな人を包摂するケアとはあまりに違う世界で頭の中がくらくらする。