Macical Mystery Tour

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私の手の倫理(16)意識の輪郭と境界を越える手

傷病や闘病で変化した見た目を
フォローする化粧品メーカーさんの
カウンセリング施設
「ライフクオリティービューティー
センター」にヘアとメイクの体験で
伺いました。其処ではプロの方から
未体験の技術とケアを伝えて頂き、
習慣化の先にある心地良さや佇まいへ
と導く手に出逢えました。

食道がんを発症して抗がん剤治療では
脱毛を経験して以来、髪が伸ばせる
喜びから肩を軽く超すロングに定着。
普段ひとつ結びで熊手クリップ止め
スタイル=髪を集め散らかせない事で
集中して物事に向かうモード、なのだ
と気付きました。髪を下ろし毛先を
アイロンで軽やかにしてツヤを出す、
帽子の代わりにスカーフで緩く纏める、
副作用間もない頃使っていたショート
ウイッグを自然なニュアンスで合わせて
みる…と頭は同じでも見事なアレンジで
触れられている箇所への意識にレイヤー
が増えた様でもあり驚きました。
ヘアメイクアップアーティストの方が
"髪は額縁"とおっしゃるだけに色々な
髪型を着せて頂けていると、その質感
と輪郭が身体全体に迄波及します。
実際髪を結わず自然にしている時は
リラックス気分に。ウイッグで前髪を
軽く流せば目元の印象も柔らかくなり
切り揃えてあれば強くなったり…で視線
の集まり方や広がりが変わる面白さも
ドキドキしながら実感しましたね。

化粧水は"乾かさない為一通り付ける"
がメイクの方に教わって"馴染ませる"に
なりました。肌と骨格を包み込む様
しっかりと手で触れ浸すうち(脈拍位の
ゆっくりで)顔の表情の癖、痕、凝りが
解り和らぐ様にも。これはハンド
マッサージに通じる心持ちですね。
目元を描くアイブロウやアイライナー
の色は丁寧な乗せ足しにしたら力みが
無くなり仕上がりが良くなりました。
喉頭摘出手術で声が出なくなって唇は
無意識に肌と地続きな色のベージュを
選びがちに。それが赤いベリー系の
リップを付け彩りで一気に形が際立ち
ました。肉声の発話は無くても口話法
で見える形の言葉や表情を今迄以上に
伝えるのにいいな…と嬉しかったです。

顔とその周囲の輪郭を技術とお心遣いの
手を借りながらより良くフォロー出来る
喜びの積み重ねは、意識の境界も越える
人生の優しい後押しにもなります。
鏡と粧いに向かう中で労いの美意識と
共に、肌や髪に触れ続ける事で起こる
であろう素晴らしい影響を今後も
楽しみながら過ごしたいですね。

(Y.I.さん)

私の手の倫理(15)肌を創り可能性を引き出す手

傷病や闘病で変化した見た目をメイク
でフォローする化粧品メーカーさんの
ライフクオリティービューティー
センターに初めて伺いました。
食道がんになり、抗がん剤治療で
生まれたシミのカバー他顔を明るく
健康的に見せられたら…とプロの方に
委ねてみる事にしたのです。
その時手はメイクツールになり触診の
様でもあり、可能性の出入口でした。

自分の肌色に近いカバーファンデー
ションを指先に軽く取り灰色がかった
シミの上に乗せて、色の変わった境界
を点描の様に軽く馴染ませていきます。
体温と地色で柔らかくなり同化して
くれた所に、仕上げは肌色のお粉で
押さえて崩れを防ぎます。これで
見た目には殆ど分からなくなりました。
術後、こんなにも顔の肌色に向き合い
触れながら自然に更新されてゆくのは
不思議な気がしますね。
頬紅も血色を気にしてやり過ぎや
やらなさ過ぎで、悩ましかった所を
光の様に頬骨の角度に色を当てたら
上手くいく様に。色を与える、よりも
肌体温の少し先を乗せる感覚です。

ハンドマッサージではいい香りの
クリームで手のひらの他に指の付け根
から指先に向け側面に沿って進み、
途中で半回転させて爪にもゆっくり
塗り与えます。
普段は無自覚な"乾いてるなぁ、力が
入っているなぁ…"が触れながら良く
分かり5本指1本ずつを片手にしただけ
でも手が軽く和らいで潤います。
肌や骨の輪郭にもアプローチする
心地良さは指から痺れが出てゆくかの
様で、此処から血流が変わり全身の
巡りも良くなったみたいです
(毎日夜に継続中)。

メイク="着飾る"が主だった概念が
症状と共生しながら整えてゆく、にも
なりました。
肌は表情や体調がはっきり示される
もので、その理想を描きながら労い
伝えて下さる方の手はとても温かく
変化の落胆や不安を緩和してくれます。
心身の揺らぎに医療とは又違うケアの
方法を見知れた事は、内に籠らず今後
も生活を続ける中で制限を減らし
意識の可能性を引き出す"手"になって
くれると信じて大切にしたいですね。

(Y.I.さん)

「光速0」の世界ーー視覚障碍者の科学

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視覚のない世界とはつまり光の速さがゼロの世界であるーーそんな不思議な物理学の世界にいざなってくれるのは、物質・材料研究機構の石井真史さんです。スケールが変われば成立する法則が変わるように、私たちがふだん慣れ親しんでいる物理法則とは違う法則が支配する世界を考えてみることができるかもしれない。もし、音と同じように、光の速さが変わる世界があるとしたら?そしてついにその速さがゼロになる世界があるとしたら??

動画は全8回(予定)で構成され、石井さんからのテーマに沿ったレクチャーのあと、伊藤との短い対談が続きます。視覚のない世界に物理学で接近する方法があるなんて思ってもみませんでしたが、毎回のレクチャーを受けるうちに、視覚なしで生きるということは、人間の能力の未開拓領域だけでなく、世界の物理法則の未開拓領域を開拓するということでもあるんだ、と気がつきました。長年理工系の研究者として現場に身を置き、現象を観察してこられた石井さんならではの、見えない世界の見方だと思います。

第一回:無限遠の発見

第二回:七色と八十八音

第三回:光と音の芸術

第四回:透視

第五回:タイムマシン:時と空間の使い方

第六回:視覚障碍者のアクティビティ

第七回:終わりに:神はいつ音を作り給うたか

第八回:ふりかえり

音声版『感性でよむ西洋美術』

盲学校にはいまだに美術の教科書がないと言われています。実際には、教科書がないわけではなく、晴眼児と同じものが配布されるのですが、当然、図版だらけのそれは見えにくい/見えない子供にとっては容易にはアクセスできません。これでは「美術は自分たちには関係ないんだな」というネガティブなメッセージが伝わるだけです。また、生活訓練などに時間と労力が割かれるため、美術教育にまで手が回らないという事情があります。

そこで、美術に関心をもった人のために、音声で聞くことができる、入門者むけの西洋美術史のコンテンツを作成しました。全体で約170分とコンパクトなサイズなので、倍速なら1時間半もあれば全て聴き終えることができます。教科書の代わりになるか分かりませんが、西洋美術を楽しむひとつのきっかけになれば幸いです。

本コンテンツのもとになっているのは、2023年にNHK出版から刊行された『感性でよむ西洋美術』という本です。この本を著者である伊藤亜紗自身が朗読しています。その際、もともと32枚あった図版のすべてに、言葉による説明(イメージディスクリプション)を加え、図版がなくても本文の内容が楽しめるように工夫しています。また、本全体が大学生に対する授業という形式をとっているので、その雰囲気をより出すために、研究室の学生4名にも、朗読に参加してもらいました。

思えば、小説の中に絵画が描かれるときは、基本的に図版はついていませんよね。それと同じように、このコンテンツも、図版なしの美術の入門書です。あるいは入門書の形をとったラジオドラマかな?

本コンテンツの構成は、全6章です。これに「はじめに」と「おわりに」がつき、途中に学生たちが参加するワークショップが2つ挿入されています。したがって、コンテンツは全体で10の部分からなり、すべて別々のファイルになっています。章の構成は、第1章の「ルネサンスの夜明け」から、第6章の「抽象画「わからなさ」を感じる」まで、時代順です。

さいごに、わたしがこの世で一番苦手なもののひとつは音読です。つっかえてばかりで聞きにくいかと思いますが、どうか寛大な耳でお楽しみください。いつか、もうちょっと聞きやすいバージョンを作りたいなと思います。あ、学生たちの音読はとっても上手です。

はじめに

第1章 ルネサンスの夜明け

ワークショップ 比較の練習

第2章 ルネサンス 「理性」を感じる

第3章 バロック「ドラマ」を感じる

ワークショップ 「ぽさ」さがし

第4章 モダニズム 「生々しさ」を感じる

第5章 キュビスム 「飛び出し」を感じる

第6章 抽象画 「わからなさ」を感じる

おわりに 

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