私の手の倫理(4)駅で
1年程行っていたドイツで知り合った日本人の女性がいた。彼女はシュタイナー教育を勉強していて、常に一生懸命な人だった。私が日本に戻り3年ほどしてから、彼女は一時帰国することになり、久しぶりに会うことになった。カフェで数時間もドイツの思い出話や現在の状況を語りあった。
けれども、私は異国での開放的な感じから、気を使い合う日本社会に引き戻されて、どこか斜に構えたようになっていた。
別れ際の駅で、彼女はふっと私を抱きしめた。それは、異国であれば割と普通な挨拶ではあったが、彼女の優しさが痛いほどに伝わってきて涙してしまった。
日本では家族であっても身体的に触れ合うことが全くない生活で、あの一瞬の出来事は今でも身体を通して心に触れたような出来事としてずっと心に残っている。(N.M.さん)