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私の手の倫理(7)九谷焼

以前、仕事で九谷焼の赤絵の先生にインタビューしたことがあります。
九谷の赤絵は細筆で細密描写を施した大変技術力の必要なもので
その道の大家と呼ばれる先生でした。
当日、お話し伺わせていただいた後「もうすぐ個展だから」と
沢山の出来上がったばかりの作品を見せてくださいました。
壺やら大皿やらと、いわゆる古典柄の美術工芸品で
その当時30代だったわたしには個人的には縁遠く
興味をひかれるものではなかったのですが
先生が「さわっていいよ」とおっしゃってくださいます。
傷でもつけたら!とビクビクしながらも壺を持ち上げ撫でつつ
頭の中では「これ幾らするのかな」なんていう冷静な自分がいました。
でも、手から何か伝わってくるのです。
それは今もうまく言語化できないのですが
その作品を作っている時の先生の集中力というか、エネルギーというか
そういうものが手からビリビリ伝わってきてしまい
頭は冷静なままなのに、勝手に涙があふれてきてしまいました。
なんの涙なのかよく分からないのですが
ある意味では「感動」だったのだと思います。
自分でもびっくりして、先生もびっくりしていましたが
「ほんとに好きなんだね」と笑ってくださいました。(K. Fさん)