Macical Mystery Tour

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私の手の倫理(20)届ける為のほぐす手

食事や絵画に音声など、時に塊では
受け手に届きにくいものがあります。
例えば噛んで飲み込むのが難しい
乳幼児や高齢の方には細かく柔らかく
した食べ物が好ましく、情景の陰影を
豊かな色にするには面に一色で描く
より朦朧感や点描というやり方が。
今回はそれらの概念の手が言語にも
当てはまった体験です。

私は食道がんで喉頭を摘出して現在
肉声の無い生活をしています。
言葉を文字に起こす以外には
人工喉頭=EL(エレクトロ ラリンクス)
を代替音声にしています。
ELは喉元に当てて声帯代わりの振動で
声を発しますが、「あ行」と「は行」の
区別がつきにくいです。
は=HaだとHで息が抜けてしまい
母音の「あ」だけが音として残りがちで
「はひふへほ」の発音のつもりでも
「あいうえお」に聞こえてしまいます。
そんな中、一音をほぐして
ふぁ、ふぃ、ふぅ、ふぇ、ふぉ、の
意識で出すと「は行」に聞こえ易くなる
のを発声教室で知りました。
今までは「星(ほし)を見る」が
「推し(おし)を見る」に聞こえがち
だったのも「ほ」→Fo(ふぉ)と発音して
かなり「は行」に寄せられました。
他にも「を」=(ぅお)や「わ」=(ぅあ)の
発音認識だと「あ行」の音との区別が
し易いです。

緩やかな色調の絵を近くでよく見たら
一見意外な色が混ざっていた、的な
手法。その事象に繋がる"音をほぐし
理想に近付ける"発話法でした。
様々な分野でも特性から存在の輪郭や
内側をほぐし和らげれば、新たな
可能性を見出だせるかもしれない
ですね。

(Y.I.さん)

私の手の倫理(19)声と言葉を探る手

2020年に食道がんで喉頭摘出以来
肉声の無い生活をしています。

会話は主に筆談やタブレットへの
文字入力と表情や身振りなどです。
あとは食道発声(食道入口部の粘膜を
声帯代わりに息で震わせて"げっぷ"の
要領で声を出す)です。こちらは未だ
日常会話レベルには厳しく、最近
咄嗟の時の発話に備えて人工発声器
EL(エレクトロ・ラリンクス)を使い
始めました。

ELは外してしまった声帯代わりの
振動を発する機械で、喉元で「あ」の
音がはっきり響く場所を探し当てて
口と舌を動かすと息を吐かなくても
声になります。
今までは指先を通して文字変換する
のに相手を待たせない為にもなるべく
凝縮した言葉を考え降ろしていたのが
瞬時に声を出せる様になり、喉で震える
拡声器がやって来たみたいです。
発音が鮮明な喉の位置は日によって微妙
に変わるのでELで声を出しながら触れ
決め、調節ボタンでイントネーションも
付けます。喋りのイメージはAI登場以前
のロボットといった所でしょうか。
これも自身の声、と認識されてゆくの
かな…と不思議な感じでもあり慣れる
のに日々手探りですね。

ちょっと悩ましいのがELは
は行=はひふへほ、で語感の輪郭が
何だかぼやけてしまい
あ行=あいうえお、になります。
例えば「星(ほし)を見る」は
「推し(おし)を見る」に聞こえるそう。
区別が出来る迄は「空のお星さま」など
伝わり易い発音と言葉を探すのも
課題になりました。

声と言葉を届ける方法が増えてきて
話す事の意識の使い方や感覚は
今後も色々面白くなりそうですね。

(Y.I.さん)

私の手の倫理(18)「座る」を受ける手

ポール・ケアホルムの
ミニマムデザインの椅子を観て座って
きました。
潔い設えは鮮烈ながら人を想う温かさが
あり、其処に身を置く人達の体幹にも
新たな線を引ける様に感じました。

合理的機能性を支えるものには
意識の輪郭や線描点描があります。
素材も革、スチール、成型合板、藤
…と硬さやしなり具合、編み方など
質感ならではの特性も活きてきます。
椅子の横顔からは作品の背骨を感じ、
実際座ると背骨と付随する材質からの
感覚の意外性に驚かされました。

椅子のフォルムによって身体は
腰=落とす、沈める、置く、掛ける
背=もたれる、寄り掛かる、伸ばす、
沿う…などになり
アップルパイの表面模様に似た編みの
座面は、繋ぐ線と隙間で受けられて
いる感が独特です。
腰回りに触れる硬さ柔らかさが膝上の
付加に響き、足への力加減も脱力か
伸ばす方がいいかが異なります。
後ろからU字状に包むものや肩から
手が生えたかの様に支えるものも。
力が分散集約される面の広さ狭さや
傾きで視界も変わります。
今まで座った事のない形では心身の
息遣いや気の巡りも軸が動き穏やかな
拡張が得られますね。

ベッドで長く過ごす入院中には眠り〜
座りの微調整を手元でしていました。
頭から背中の傾斜に腰から足…と
呼吸や重力感の通り道を少しでも
楽にしたく、探りながらより良い所に
決めていきます。定まった時は
"受けられた!"とベッド全体がまるで
自分の別の手になったかの如く不思議
な感覚でした。
日常では一見ありふれた座る事も
休み寛ぎ姿勢を守る…を色々な形で
身を受ける"手"があって、その時々に
出逢える面白さを楽しんでいきたい
ですね。

(Y.I.さん)

「東南アジアのケア」リサーチ日記:ベトナム編

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