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オフプロムナード(1)空気より酸素

IMG_3976.jpg*オフプロムナードは、伊藤が2019年6月まで担当していた日経新聞プロムナードコーナーの私的な続きです(日経新聞とは無関係)。プロムナードの毎週の連載のリズムを失うのが惜しくて、ボストン滞在中は可能なかぎり続けてみたいと思います。写真はMITのヨットハーバー(パビリオン)。


先週、全MIT関係者のメールボックスに一通の「手紙」が届いた。送り主は現学長のラファエル・リーフ。手紙は「移民とは酸素のようなもの」と題されている。全文はこちらでも読むことができる。

米中関係の悪化を背景に、中国系の学生や教員が政府関係機関とのやりとりで不当に取り調べを受けたり、差別的な扱いを受けたりしている。MITはこれまで、アメリカそのものと同様、ひとつの磁石として世界中の才能をひきつけ、そのことによって繁栄してきた。外からやってくる者を排除することは、非MIT的かつ非アメリカ的なふるまいであり、それは結果として自身の首を絞めることになるだろう。手紙はそう力強く語っていた。

そしてこう締めくくられる。「私たちのような国では、移民は酸素のようなものです。新鮮な酸素の波がやってくるたびに、体全体がまた活性化するのです。ひとつの社会として、移民に機会を与えれば、私たちはお返しに共通の未来に向かって進むのに不可欠な燃料を得るのです。私はこの知恵がいつでもMITの生命と働きを導いてくれると信じています。そして私たちの国を導き続けるものでもあって欲しいと思っています。」

もちろんこれは、理想を高らかに謳う勇敢さにおいてこそ評価されるべき文章だろう。現実には、MITは必ずしもすべての他者に友好的な場所ではない。MITは巨大な軍事研究施設でもあるからだ。年間の研究予算の17%、金額にして130億円以上の資金が、国防費に由来している。

そのことを差し引いてもなるほどと思ったのは、コミュニティをひとつの生命と捉える視点である。生命が外界とやりとりすることで自らを維持するのと同じように、コミュニティもまた、外からやってくる者や世界に出て行く者によって活力を得る。移民ではないが、私もまたMITにとっての酸素なのだと考えることは嬉しい。そしてそれはMITのメンバーと接するときに感じることでもある。私は学ぶつもりMITに来たが、私の話に耳を傾ける彼らの熱心さに驚くことも多い。他者である私から、多くのことを吸収しようとしているのだ。

日本社会は「空気」を重んじ、「場」の力が強いと言われる。アメリカに来て感じるのは、この空気や場が人と人のあいだにないことだ。その代わり、人そのものが酸素であり磁場になる。空気は放っておけば淀む。淀むとは、先回りや忖度の自家中毒で、本質的な問題が見えなくなることだ。何もいますぐ移民を受け入れるべきだとは思わない。ひとまず移民を「よりよい生活を求める切実さ」と言い換えてみたらどうだろう。この率直でポジティブな力を吸い込むやり方こそ、いま私たちが忘れてしまっているもののように思う。(2019.7.4)

2017前期人文学系ゼミ

2017前期人文学系ゼミ、今年は札幌国際芸術祭へ。一日中歩いたあと、振り返りのディスカッションで気づけば日付をまたいでいました。そして北海道の美食!「てっちゃん」の舟盛りはタコが動いてる!

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2016年度卒業式

IMG_7126.jpg伊藤研をひっぱってくれた二人の学生が修士課程を修了しました。高齢者施設やホテルへのフィールドワークを通して、「パフォーマンス」の概念から人とロボットの相互作用を分析した星さん、「真実を写すもの」というステイタスがゆらぎつつあるなかでの写真のアートにおける位置を分析した村上さん。長靴でゴメンねー!

来年度の体制は、D2が1人、M2が1人、M1が4人。理系出身、文系出身、芸術系大学出身、もちろん男子学生もいますよー。

聴覚版VR

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芸術Cの課題作品として学生が作った聴覚版VRシステムが、iPhone用ゲームアプリとして、iTuneで公開されました
授業は科学技術とアートの関係についての話をメインに、ときどき目の見えない世界の話などをしていたのですが、学生はそこをうまくつなげて、「視覚ぬきのスマホの使い方」を提案してくれました。音が空間に定位されていて、スマホをそちらに向けると、鳥のさえずりやゾンビのうめきが聞こえてくる。音が聞こえる方向にスマホを向けたままタップすることで、音の主を捕獲(=写真に撮る)ことができるという仕組みです。

授業の成果がパブリッシュされるというのはとても嬉しいこと。いい反響があることを期待しています。


ーーーー(以下、アプリのディスクリプション)ーーーー
アプリの内容は、
あなたの周囲360度に広がる『音』に耳を澄ませよう!
視覚情報の一切ない状況で『音』だけを頼りにミニゲームに挑戦!
聴覚版の擬似現実( VR )体験が出来る新感覚アプリここに誕生!
聴覚を刺激する3種類のミニゲーム
いずれも視覚情報は一切ありません。
周囲360度から聞こえる音を拾いながら状況を判断しよう。
(デバイスの向きとゲーム内のあなたの視線は同期しています。デバイスの向きを変えることでゲーム内のあなたの視線の向きを変えられます。)
1)Bird Watching
あなたは静寂と騒めきに包まれた森林でバードウォッチングをしている。周囲から聞こえるホトトギスの鳴き声をよく聞き、上手に写真を撮ろう。
2)Zombie Baster
血肉に飢えたゾンビが出る真夜中の墓地に迷い込んでしまったあなた。
手に構えるショットガンで襲いかかるゾンビの軍勢に立ち向かおう。ただし真っ暗闇の中、あなたが頼れるのは自身の聴覚だけ、、。
3)Jet Chase
白熱の空中逃走劇!
ジェット機に乗り亡命を企むUFOを捕まえよう。しかし、UFOは姿が見えず機体が発するサイレン音だけが頼りだ。