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さえさん×玲那さん

13年連れ添った盲導犬のセラフを2020年10月に看取った西島玲那さん。亡くなる前の数ヶ月、セラフは度重なるてんかんの発作に見舞われていました。発作を誘発する要因のひとつが気圧の変化。そこで玲那さんは、同じく気圧によって吐き気・めまい頭痛などの症状が出てしまう身体表現性障害のさえさんと連絡をとりあうことに。体調が本当に悪い時は連絡すらとれず、その前後の通信可能な時間帯のみで行う時差をふくんだやりとりは「地球と月の交信みたいだった」そう。くまとOriHimeで物理的には初対面した2人に、そのときの様子を聞きました。

 

2021/8/12  OriHimeによる対面@東京都目黒区内

 

◎OriHimeとクマ

さえ(OriHime越し) なんかすごい緊張する!

 

伊藤 なんで緊張するの?

 

さえ 何でだろう…初めて会った感じ、やっと会えた、的な感じかな… 

 

玲那 (OriHimeが)ここにいるの?

 

伊藤 いるよ。手をパタパタしてるよ。もうちょっと前だよ。

 

玲那 はっ、いた!(クマのパペットでOriHimeをハグ)

 

さえ 可愛い〜

 

玲那 やっぱり大きく見える?

 

さえ 見える見える!クマも玲那さんも見えるよ。なんか面白い、クマのほうが本物って感じ(笑)。クマの動きが、私のなかの玲那さんのイメージなんだよね。クマだと同じサイズだから同類感があるよ。

 

伊藤 クマがもじもじしてる…

 

さえ 私もいまもじもじしてる(笑)

 

伊藤 すごい…お互い分身でしゃべってる(笑)

 

玲那 緊張するんで。

 

さえ 少しずつステップアップしていかないとね。

   (OriHimeに)触ってみる?

 

玲那 ええっ⁈(クマ触る)

 

さえ (OriHimeの首を動かす)

 

玲那 けっこう激しい!

 

さえ そうなの。けっこう自己主張激しいんだよね(笑)

 

伊藤 確かにこんなにはっきり首振る人いないよね。

 

さえ ワンタッチで否定の意を表せるんです(笑)

 

◎体調に生活を合わせていく

伊藤 さえさん、今日は体調どうですか?

 

さえ 今日は急に涼しくなったので、やっぱり体調はあんまり良くないです。でも、このどうにもならない感じは慣れてるし、今日は予定があるのが分かってたので、そこに合わせていくのはいつもしてるので、大丈夫です。

 

伊藤 それは、どうやって「合わせていく」んですか?

 

さえ 感覚的な話になっちゃうんですけど、予定がない日はもう「委ねる」みたいな感じです。でも予定がある日は、普段よりもちょっと自分の体調の変化の感度を高めるようにしています。普段は、意識しないことで体調の悪さを少し紛らわせることが出来るから、あまり意識しない、限界を超えたらもうしょうがない、という感じにしてるんですけど、予定がある日は、ちょっとの変化で「あ、これで吐き気がちょっと強くなりそう」みたいなことがなんとなく経験でわかるので、そういうのを避けてみたりします。あとは前の日にお白湯を飲むとか、お粥を食べとくとかして、ほかのところに負担をかけないようにして、会って話せるぐらいの体力を残すようにしています。

 

玲那 消化器系を休ませるのって大事なんだね。

 

さえ そう、消化するのにもそっちに体力が行っちゃうからね。できるだけ休めて、その日のためにためえるみたいな感じかな。でも体力がギリギリにしかたまらないから、今日は亜紗先生と玲那さんと話すぐらいの体力しかためてなくて、ここで突発的に誰かが来て踊りだしたりしたら私の体力はなくなると思う(笑)

 

伊藤 なるほど。今日使えるエネルギーの総量みたいなのがあって、それが天気や食事の内容によって変わっていくっていう感じなんだね。

 

さえ そんな感じです。それ計算してます。イメージとしては「綱渡り」って感じなんですよね。

 

伊藤 それは結構なスリルですね。

 

さえ 私と似た症状の友人とも話すんですけど、たまたま落ちないでうまく綱渡りが出来てるけど、やっぱりいつ落ちるか分からないから怖い、って。落ちちゃうと、必要最低限の生活ができなくなるから、もう活動停止みたいな感じです。

 

伊藤 年に何回も「落ちちゃう」ことが起こるんですか?

 

さえ それは多分人それぞれだと思います。私の場合は、コントロールが徐々に出来るようになってきたのがここ3、4年ぐらいで、発病してから7、8年くらいは難しくてほとんどコントロールできず、体が使えない時期のほうが多かったです。自宅療養って感じでギリギリやっていたんですけど、それがだんだんいなせなくなって入院して、少しずつまたコントロールできるようになってきたのがここ3、4年です。今はギリギリ、本当にギリギリ何とかやれています。そうなるまでにすごく時間がかかりましたね。

 

伊藤 いろんな工夫をして、どうするとコントロールできるか、という経験則をためていくのに時間がかかったっていうことなのかな?

 

さえ それもあります。数年前から体調を数値化して手帳につけていて、どういう時に悪くなるかとか、今年すごく体調が悪いけど去年の今頃はどうなんだろうとか、傾向をとらえることができます。でも傾向は使えるけど、私の場合は外からの刺激の影響を受けるから確実性はない。あとは気持ちの問題も大きかったのかもしれないです。付き合う前までは、症状を消さなきゃならないって思っていたんです。消さなきゃならない、消せない、どうしようどうしよう、ってなっていたのを、入院して、先生に「難治性だから一生付き合っていかなきゃいけないかもね」って言われてからは、わりと付き合うことを主眼において生活するようになりました。その気持ちの切り替えも大きかったかなと思います。

 

伊藤 なるほど。体調の数値化は、具体的にどんな感じでやってるんですか。どんな項目について数値化するんですか?

 

さえ 私の体の症状自体がわりと多岐にわたっていて、たくさんの不定愁訴があるんですよね。吐き気、頭痛、めまい、とか。でも一番生活に困難をきたすのは、吐き気なんです。だから私は吐き気の強さを10段階評価にして数値化しています。頭痛とめまいは、症状がマックスだったのしても、なんとかコントロールできる症状なんですよね。

 

伊藤 そうなんだ。めまいって結構キツそうだけど、それよりもまず吐き気なんですね。

 

さえ そうなんですよね。結構ぐるぐる回っちゃうんですけど、私の中では何とかなる症状、という位置づけです。なので、めまいとか頭痛に関しては備考欄のところに○△×の三段階でつけています。

 

伊藤 なるほど。ちなみに今日の吐き気は10段階でいくつぐらいですか?

 

さえ 今日はどうかな…10段階でいったら7くらい…ちょっと何か変化があったら8に行きそうな感じです。

 

伊藤 7かあ…しかも1日のなかでも度合いが変化するんだね。

 

さえ  あそう一日の中でもかなり変わりますね。だから夜に一日の吐き気を平均化した数値みたいのをつけてます。

 

玲那 じゃあ、クマくるよって言っておけばよかったね。

 

さえ クマはちょっと予想外だったよね。でもね、クマがいると気が和らぐよ。エネルギーを奪うタイプの激しさじゃないから大丈夫だよ。

 

伊藤 さえさんは影響を与える要素の数がものすごく多いと思うんだけど、その中で天気が占める割合って大体どのくらいなのかな。

 

さえ 難しいですね…ふだんは6−7割…でも台風が来るともう天気の要素が占めちゃいますね。私は症状が24時間続いてるので、変化っていうものにすごく弱いんだと思うんですよ。気温の変化や天気の変化の影響を受けやすいんですが、そのうちの1つの要素がやっぱり気圧の変化です。 吐き気にも多少影響はするんだけど吐き気は常にずっと強いので、頭痛とかめまいとか、そういうコントロールできるタイプの症状が気圧の影響を受けやすいですね。

 

伊藤 めまいってどうやってコントロールするんですか ?

 

さえ 体そのものはコントロールできないです。でもそれがあった状態でどう生活するかって言うコントロールは、何年もこういう状態が続いてると、だんだんできるようになってくるんです。生活を合わせていく感じっていうのかな。台風が来たときに台風そのものはコントロールできないじゃないですか。でも、来るからそのために備えをして、その間は家で過ごしたりすることはできる。そういう感覚に近くて、めまいが来るとなったら、安静にして、自分の活動レベルを落としたりとかしています。難しいですね。

 

伊藤  なるほど。気圧の影響の影響は、気圧が下がるときだけじゃなくて、気圧がずっと低い時や高くなるときにも感じますか?

 

さえ 結構でますね。 下がったときは同じように体調が乱高下するので厳しくて、低い状態が続いているときは、もうその体調が下がった状態で低空飛行するみたいなイメージなんです。体調でしんどいのっていきなり痛みが上がったり下がったりする瞬間だと思うので、いったん下がったらこの自分の体に合わせてその生活の質を変えていくだけ、という感じですね。

 

◎「操作する」から「入る」までのグラデーション

玲那 日照時間みたいな緩やかな変化はどうですか?一年の中でもいいし、晴れやくもりの影響はありますか?一般には影響を受ける人が多いと思うけど…

 

さえ 太陽の出てる・出てないは、あまり影響はないかな。でも、「昨日まですごい暑かったのに今日涼しいよね」とか、「すごい寒かったのに今日はいきなり天気が良くなって気持ち良いよね」みたいなものはあまり享受できない。

 

玲那 そっか。天気そのものはいい方に向かっていても、変化自体がよくない影響になっちゃうもんね。この前、さえちゃんが具合悪くなったと思ったら台風が発生したことがあったよね。それを聞いて、幻肢の人が台風を感じるっていうのと似てるなと思った。

 

伊藤 やっぱり予兆を感じるのかな?

 

さえ 予兆はすごく難しいです。「頭痛ーる」っていうアプリがあって、最初は、高気圧とか台風に応じて「注意」とか「警戒」とかが分かるグラフを出してくれるから、参考にしようかなと思って、結構見たりしてたんです。同じような天候に体調を左右されやすい子と一緒に「頭痛ーる便利だよね」っていう話とかをしてたんですけど、それが必ずしも当てはまるわけじゃなくて、安全なのにものすごく症状が強く出ることもあることが分かってきた。だからここ数年は、あんまり数値とか天気予報とかを当てにするのはやめて、すごく抽象的で説明するのが難しいんですけど、玲那さんにも言ったその台風が発生する前の日っていうのに、独特の症状があるんです。普段は5とか6ぐらいの吐き気で生活していて、グラフで言うとまっすぐな状態が続いているんですけど、台風が発生する前の日って、断続的にいきなりそのグラフが10までピーンと数秒跳ね上がる、わあ、つらい、泣きそう、みたいな症状が夜なんかに体の中で出るんですよね。そのよくわからない「怖い、不安!」みたいなのが上がって落ちるみたいなのが続いて、それで家族になんか今日おかしいんだよね、泣きそうになる吐き気が体の中で起こるっていう話をすると、次の日に朝ニュースを見ていた主人が、トリプル台風だよ、とか教えてくれる。だから天気に関しては、今は予測で使うっていうよりは事後報告的な感じですね。「やっぱりなー、あの体調不良は台風だったんだ」という感じです。

 

伊藤 なるほど。確かに幻肢痛の人も、先回りして気圧とか天気を見ちゃうと、かえって影響を受けちゃってしんどくなることがあるから、 天気予報は前もって見るっていうより後から答え合わせのような感じで見るって言ってましたね。 もちろんよっぽど研究熱心な人は前もって見る場合もあるけれど、必ずしもそれが生活にとってはいい結果にならなないって。

 

さえ 同じです。前もって調べると要素が多すぎちゃってどれに当てはまるかわからないし、台風が来ていても大丈夫な時もあったりする。そういうときは備え損だったりするので、 あまり見ないですね。むしろ家族のほうがそれを気にしていて、最近夫が気圧計みたいの買って、電子工作でその気圧の変化がわかる機械みたいなの作り始めたんです(笑)

 

伊藤 さっきのコントロールに関して、いまはOriHimeで働いているけれど、仕事環境としては体調にあわせて調整できる感じなのかな?

 

さえ カフェでの定期的な仕事が今始まってて、こないだの台風のときとか体調を崩す方が多かったんですけど、私は今のところはそんなに休まずできているから、そこそこコントロールが上手くはなっているな、と思います。

 

玲那 自分の体から魂が抜けてOriHimeに入ることで、具合の悪い肉体を置いていった感じがあったりするのかな?

 

さえ 精神的なストレスに関してはOriHimeと生身が連動してるけど、光、匂、音とかの環境の変化からくる情報に関しては、こちらである程度絞ることができるかな。たとえばいきなり生身でフードコートに行ったら、匂いと声の洪水で結構参っちゃうと思うんだよね。でもOriHimeに入ってなら、最初は音量のボリュームを0にしておいて、自分の耐えられるところまで上げていくとか、そういうことが出来る。仕事をする時は それはかなり絞ってやっているかな。

 

玲那 じゃあOriHimeに入るとその時だけ症状のレベルが一段階下がる、とかっていうこともありますか?

 

さえ あります!だから仕事できているし、今日玲那さんと亜紗先生に会うのも生身だったら無理だけど、OriHimeなら入れる。本来のOriHimeの使い方とはかけはなれちゃうんだけど、極論言うと、これはテレビ電話だって思うことでOriHime側の現実と、 こっちの自分を解離させることができるんです。それで、体の感覚的には自宅に居る感覚に強く引き寄せて、OriHimeを「操作する」っていう感じにしちゃうこともできる。でもそれだと外に出たい欲求は満たされないから、プライベートとかで使う時は、なるべくOriHimeの方に自分を寄せています。だからそのグラデーションの割合を自分で都合のいいように変えているんだと思います。

 

玲那 それはとても生身の肉体っぽいですよね。一般的にたくさん外に出ている人って、聞きたくない話を聞かなかったり、うまくシャットダウンしたり、オンオフできているような気がします。

 

さえ やっぱり聞かない方がいい会話とかが聞こえてくる時ってあるんですよね。でも結構あえてそこに居座っちゃうこととかがあって。「良いものだけ取らない」みたいなのも、やっぱり生身で外で過ごす良さとかだったりするんです。本当に良い情報だけ、心地いいものだけ取りに行くとVRとかで自分の作り上げた世界に居るのとあまり変わらない感じになっちゃう。だからちょっとストレスがかかったり、吐き気がめっちゃ強いとか思うところにも、なんか抜けずに行っちゃうみたいなことがあります。

 

伊藤 なるほど!すごくおもしろいね。 確かに現実にそこに行ったら嫌なこともいっぱいあるはずで、それをシャットアウトしちゃうとバーチャルになっちゃうってことだね。

 

さえ 後から冷静に考えると、いざとなればあの時OriHimeから抜けれた、みたいのはあるんだけど、OriHimeに入っている時はそういう思考回路が切れてるんですよね。逃げる選択肢がそのときはなくなってる。

 

玲那 なるほど。どこかで抜けられるっていう安全圏があるから入れるものなのかと思ってたけど、そうじゃないんだね。簡単に帰れないっていう意味ではほんとうに肉体なんだなって思った。

 

◎セラフのてんかん

伊藤 玲那さんは体調の変化はどんな感じなの?

 

玲那 わたしは眼振っていう眼球が揺れる症状が一番厄介です。一日の中で自律神経が疲労して行くとひどくなってくるんで、朝は楽で、だんだんひどくなってくっていう流れも決まってる。晴れすぎていると紫外線の影響で自律神経が披露するみたいで目がグルグルし出すのが早かったりするんですけど、基本は朝が一番楽で、そこからは揺れが大きくなる一方なんです。だから逆に時間を読みやすいですよね。「何時までに終わらせれば大丈夫」みたいなことが分かる。夕方4時5時ぐらいになると、方向感覚が怪しくなって家のドアにぶつかっちゃったりするから、午前中が一番速く動けます。

 

伊藤 セラフ(盲導犬)の介護をしているときは、睡眠時間が削られて体調にも影響があったんじゃない?

 

玲那 影響はありました。でもずっと緊張してましたね。てんかんの発作が出る前はトイレのサポートが中心で、3―4時間が寝るとセラがトイレを我慢し始めちゃうから、3時間から3時間半ぐらいで一回起きる、というルーティーンが基本でした。それ以外に、ごはんを食べさせるとかそういうことがあって。てんかんが始まったのは2020年の9月の初めですね。最初のてんかんの発作のときは私はお風呂に入っていて見逃しているんですが、2回目に初めて見て、それで3回目からやっと薬を渡されて、てんかんが来るのを待つ、みたいな時間でした。10月25日に亡くなるまでは、発作の緊張がずっとありました。

 

伊藤 てんかんを見たときはびっくりしたんじゃない?

 

玲那 てんかんってふつうどんどんひどくなっていくんですよ。時間も長くなって痙攣も大きくなって。脳のダメージが増えていくんです。1回目の時は本人が一番びっくりしたみたいで、意識戻ってから目パチっと開いて結構すぐ私のところ来たらしいんですよ。私が見たときはおそらく普通に脱衣所のところに来てて、「なんかありました?」みたいな感じでした。でも数日後に2回目が来て、バンバン頻発して3回目4回目ぐらいの時には体力を食ってぐったりしちゃって、動けなかったんです。症状じたいは、セラフの場合は最初から最後まであんまり変わらなかったんです。普通に立ってるのがパターンって倒れちゃう。全身にぎゅーっと力が入って突っ張って、普段やらない動きなんですけど、反るみたいな感じになって、ガクガクってちょっとだけ小さく震えて、パターンって力が抜けて。そのぎゅーってなっている秒数を数えて記録していました。そのぎゅーが終わって、だらんとなって、軽ければすぐ目が開きます。

 

伊藤 玲那さんはセラフがてんかんになるかも、というのは予測していたのかな?

 

玲那 最初は全然予想していませんでした。でもてんかんが始まる前の8月は、もともとセラフは音が全然平気だったのに、音を怖がるようになったんです。窓が空いたままだと寝られなくなっちゃって。 具合悪いと過敏になるから、そういうことかなと思っていたんですけど、夜中にウロウロしたり、抱っこしても寝ない、という感じでした。腎機能や胃腸の問題や熱っぽさでだるかったと思うんです。もともと健康体だったから、体調が悪いっていう状態に慣れてない。でもてんかんが3回目、4回目になってきた頃に、セラフが何かと戦っている感じなんですよね。ものすごくみけんにシワを寄せたりして、それでこっちも応答しているうちに、セラフのほうから予兆があると、私のところに来るようになりました。「れなー!くるー!」ってビームが来る感じです。それで何回目だったかな、カウントダウンできるようになりました。夫がペットシートを念のため用意して待ってくれていたりするんだけど、私のなかではセラフは「もうちょっと、まだもうちょっと」って言っていて、それで「もうすぐくる!」ってなったときにパタンと倒れたので、セラフ感覚と、それを言っているものと、発作のリンクがちゃんとしてるって思えました。倒れると頭を打ったりするので、そういうのを手で支えてあげたりできるようになりました。予測っていうほど前から読めないんですけど、だんだん息があってくると、セラフの不安とかが分かって、その瞬間は分かるようになってくるっていう手応えはありました。それでしばらくてんかんは止んだんですよ。発作自体にセラフがあらがわなくなったんです。余計な不安を持たずに倒れられるようになった。そうしたらすごく楽になりました。でも10月には大型の台風が来てそこからガクンと悪くなりました。

さえちゃんは8月くらいにはかなり細く情報をくれていました。セラフは食欲の上がり下がりが激しかったけど、そういうとにさえちゃんが「今日はすごい具合悪いけどセラくん大丈夫?」とか送ってくれると、セラフが食べなくても焦らないいで気長にやろう、みたいな気になれました。

 

伊藤 さえさんは自分の体調のアップダウンについて普段から周りの人と共有することは多いんですか?

 

さえ 家族とは実はあまりしていないです。家族が様子を見て、なんかもうやばそうだったら病院につれていく、という感じの雑さでやっています。でも私よりずっと若い子で同じように天候に左右される人がいて、台風が来ると、意識レベルが下がっちゃうから「台風やばかったね」みたいな感じで。あとは自律神経系の症状については私は10年以上病気をしていて結構網羅するぐらいの感じで経験しているので、「そういう時はこうしたらいいよ」っていうようなお話をお互いにしたりしています。症状が出ている渦中で話すというよりは、「きそうだね」とか「こういう感じになったよ」っていうような感じで話します。

 

伊藤 そっか、さえさんはそもそも症状が複雑だし、種類が豊富だから、周りの人のいろんな症状を聴いた時に、全然違う病気だったとしても「私も前にそういうことがあったな」みたいに反応できるケースが多いかな。

 

さえ 多分拾えるところは大きいです。由来が何であったとしても、その症状自体は、意外と対処法って限られてたりする。そういうところで情報共有はしやすいのかなと思います。たぶんその子のがひどい状態だったとしても、薄めのグラデーションで自分もそういうことは経験してるから、 話しやすいっていうのはちょっとあるのかな。セラフがずっと健康だったから最初は具合が悪いことに慣れていない時期があったって玲那さんがさっき言ってたけど、その話も、私も最初は元気で、だんだん具合が悪い時期が健康な時期と同じぐらい長くなってきたから、体にそれほど丁寧な方ではないけど、なんか 感覚で対処できるようになってきた。さっきの眼振でドアにぶつかってたって話があったけど、私もめまいの時は家でいつもピタゴラスイッチみたくなってる(笑)。眼振とは少し違うかもしれないけど、そういうのあるよな、とか、ちょっとした困りごとみたいなのは結構分かるなっていうのが多いかもしれません。

 

伊藤 セラフのてんかんの話を聞いた時も、何か思い当たる感じがあったりしましたか?

 

さえ セラフのてんかんは、実はあまり関連性がなくて。体の反応じゃないけど、気持ちの面でパニック発作になっちゃう感じの人とか 、私が環境変化ではなく気持ち的なストレスで吐き気がすごく強くなる感じと少し似ているのかなと思うくらいで、そんなにすごくリンクするようなところはあんまりないかもしれませんね。難しいですね。

 

◎月と交信してる感じ

伊藤 セラフの状態が悪くなった10月の台風のときには、さえさんもやっぱりかなり悪くなったんですか?

 

れな そのときのことはよく覚えてます。台風が来て、小さい発作が断続的に続いていたんですけど、その日もさえちゃんから連絡もらってるんですよ。「具合悪い、来る気がする」「これから私寝込みます」みたいな内容で、お互いに台風が近づいてるっていうことは把握しているから、最終点呼みたいな感じですね(笑)。それでさえちゃんとの交信も途絶えて、でも家ではセラフの対処ができないから夜中に病院に行ってすぐに入院することになり、戻ってきて台風がすぎて、「セラフが入院することになりました」っていう連絡をさえちゃんに入れました。そのころさえちゃんは大変な状態だったかもしれないけど。なので、やっぱりすごい構えてましたね。てんかんが始まってからは転換誘発要因みたいなのを一生懸命探していて。犬のてんかんって変なもので起きるんですよ。たとえばローズマリーの匂いで起こったりする。しかも一貫性があるようなないような感じなんです。セラフの場合はカレーの匂いでてんかんになったんですけど、そういう情報はなかった。さえちゃんの症状じゃないけど料理とか音とか刺激がどういうふうに影響するか分からなくて、あとは、お客さんが来て興奮したりするのも、要因になっていたみたいです。そんな中でやっぱり一番可能性が高いのが気圧の変化でした。天気の影響は病院でも言われていました。だからあの頃はさえちゃんとのやりとりをだいぶ頼りにしていたし、知っていた方が怖がらなくて済むというのがあった。座薬ももらったばかりで、それで対処ができればひどくならずに抑えられる、というのがあったので。あのときは本当にさえちゃんと「お疲れさまでしたー!」っていう感じでした。宇宙船と交信を切ってスタンバイしてるみたいな感じでしたね(笑)

 

さえ 今話を聞いてて気づいたけど、 てんかんと似てるのは片頭痛発作だ。私は20代から偏頭痛を持ってるんですけど、発作が起こるきっかけが偏頭痛と似てます。匂いとあと光、 でも一番ひどいのはやっぱり気圧で、いきなり来て始まっちゃうとどうにもならないんですよ。それが月に何回かあって。メカニズムが違うので鎮痛剤が効かないですよ。それで発作が起きたときに飲む片頭痛のお薬もあるんだけど、予防用にてんかんのお薬を飲んでいたこともありました。

 

玲那 ほんとだね。対応も近いし、出方も似てる。どうにもならない感じも似てる。

 

さえ そうなんです。いきなり目の前が真っ暗になって、チカチカってまぶしくなる前兆があって、その後いきなり片頭痛が来る。匂いが誘発する時もあるし光とかのときもあるけどやっぱり天候が1番大きいから、偏頭痛が頻発する季節っていったらやっぱり9月とかの台風の時期です。だからちょっと似てるかもしれない、と思いました。

 

伊藤 なるほど。朝に「今日は来るかもしれない」と連絡をとりあうけど、実際にそれが始まったら音信不通になるわけだよね。それぞれの持ち場で対応していく、という関係。それがまさに遠隔でつながっている感じで面白いね。

 

玲那 午前中はさえちゃんから連絡がくることはほとんどないんです。夜のうちに送っておいてくれたものを私が朝見る、という感じになる。そこでちょっと時間差があるんですけど、「なるほど、備えます」というメールをさえちゃんが起きるであろう時間帯に投げるんです。地球と月みたいなやりとりですね(笑)セラフが明らかに気候で体調悪くなると、さえちゃんもむこうで大変なんだろうな、って月を見上げる。

 

さえ 考えちゃうよね。発作起きてなければいいなって。こっちはこっちで大変なんだけどね、考えちゃうよね。

 

玲那 「やっぱり〜」っていうこともあれば、「こっちはセーフでした」ってこともある。地球で時差があってやってるというよりは、ちょっと距離がある感じがありますね。発作が起きたりすると連絡がとれなかったりするから、「通信可能な領域に入りました!」みたいな感じがする(笑)

 

伊藤 電話をしていたのはいつごろ?

 

さえ 午後の遅めの時間か夜だね。夜が多かったかな。

 

伊藤 なるほど。じゃあそれが通信可能な時間帯で、あとは時間差でメールだったんだね。

 

さえ 私も次の日の朝になっちゃうと具合悪くてメールが送れないかもって思うから、予感がしてるうちに、寝る前に玲那さんにメール送っとこう、みたいになる。リアルタイムで読んでくれなくても、やばそうな日のどこかでその情報をキャッチしてくれればいいかな、という感じです。

 

玲那 あのころはあんまり時間を気にせず助けてもらっていた気がする。さえさんと長電話してだいぶ時間を拘束しました(笑)。自分が精神的に、ちょっと押したら倒れるような感じだったんで、誰かとつながっていないと危ないなと自分でもちょっと思っていて、それで「いつでもいいよ」という言葉に甘えてさえさんに泣きついてました。「セラフのごはんを落としちゃったんだけどどこに落ちているか見て〜」みたいな電話もありました。

 

伊藤 目の代わりもけっこうあったんだね。

 

玲那 ありました。遠隔で「セラフうんこ出してる?」って聞いたり。

 

伊藤 看護記録を見るとうんち問題はけっこうたいへんそうだね。

 

玲那 そうですね。食べられないとなると、食べれるものを探して、それでおなかがびっくりしちゃって。

 

伊藤 柔らかいのと硬いのといろいろ出てるよね。

 

玲那 セラフはやっぱり自分で排泄したいんですよね。決まったことをやりたい。ほんとに具合悪くなった経験ないヤツなんです。だから、食べたいし、動きたいし、自分でやりたい。足をカクカクなりながらトイレを自分で探しに行って、でも間に合わなくてうーってその場でしちゃう。まさに病気の経験がなくて、「悔しい」という感じでした。本人が対処できる前にどんどん次の段階に入っちゃって、それと彼は戦ってるなと思っていました。家のなかにトイレ作ってよかったなと思ったんですけど、なるべくぎりぎりまでいつものところでしたいという感じだったから、全然間に合ってないんだけど、本人は行こうとしているから、褒めてあげていました。足の負担を軽くするために家中カーペットひいちゃったんで、余計に掃除がしづらくて(笑)

 

伊藤 セラフ自身のとまどいもすごくあったんだよね。

 

玲那 やっぱり彼は自分に自信があったんでしょうね(笑)。自分のコントロール外のミスをしたことがなかったんですよね、たぶん。だから自分じゃどうにもならないことに対して、怒りと焦りがすごくあったと思う。病院だとそれを見せたくないみたいでじーっとして動かないんですけど、家だと「水もってこい!」みたいな感じになる(笑)。退院したときには「入院なんかさせられてもう人生終わりっすよ」みたいな顔してたから、さえちゃんと「太宰治みたいな顔してる」って話してました(笑)。

 

さえ 生まれてきてすみません、みたいな顔だったよね(笑)

 

伊藤 (笑)持ってきてくれたセラフの写真を見てもいい?

 

玲那 どうぞ!小さいのは私がチェキで撮ったやつです。チェキだととらえやすいんですよね。今日もOriHime撮ろうと思ってチェキを持ってきてます。

 

さえ 存在感ださないと(笑)

 

玲那 出して出して〜

 

さえ セラフ、ちゃんとカメラ目線してるね。

 

玲那 撮ると自分で写真をチェックしにくるんです。

 

さえ 電話で見るセラフ君はもう横になっていることが多くて、目をあけて我慢している感じだったから、こういう姿は新鮮だな。

 

玲那 物体として目をもつような感じでカメラを持つようになったんですよ。自分の目を自分の手の上にのせている感じです。最初はフィルムでやっていたんです。ピントもシャッタースピードもぜんぶ自分で合わせてた。自分の目を物体として操作する感覚が欲しかったんです。もっと光を入れたほうがいいのかな、というときにはシャッタースピードを遅くして、自分がじーっと見る、みたいな感じでした。絵を描いていたときに同時にそれをやって、見るトレーニングをしていました。風景だと、偶然撮れたのか、自分で意識的に撮ったのか、他の人と合わせられないけど、一番よくわかっているセラフを撮ると、セラフが写っている位置や視線と自分の物体の目が合ってるかを、他の人にあとから見てもらえるかな、と思って。

 

さえ すごいね。外付けの目だね。

 

玲那 義眼です(笑)。

 

さえ OriHimeもちょっとポンコツなくらいがいいんだよね。

 

玲那 カメラもそれに近いんだよね。

 

さえ 分身のほうができる子だと困っちゃう。

 

伊藤 クマとOriHimeで写真撮ろう!

 

さえ 最近、わたしOriHimeに入っててもぼーっとしてるって言われる(笑)。勝手にぼーっとショットを撮られるんです。

 

伊藤 (笑)OriHimeでも「ぼーっと」があるんだ!