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中島寧音さん

OriHimeパイロットとしてカフェなどで働く中島寧音さん。「そこに行く」機能だけが注目されがちなOriHimeだけど、「手を振り返す」「うなずく」など、体を使ったコミュニケーションがひらく可能性もものすごく大きい、ということを実感するインタビューでした。なぜならそれはその人の「とっさ」や「衝動」を拡張するから。寧音さんのよく動く眉毛の動きから、OriHimeになった寧音さんの動きを想像していました。


中島寧音さんプロフィール

大学生。生後11ヶ月で脊髄性筋萎縮症I型と診断され、小学生で寝たきりに。筑紫女学園大学に在籍し社会福祉を学ぶかたわら、日本橋のカフェ「DAWN ver.β」で働いている。好きなバンドはMAN WITH A MISSION、ゲスの極み乙女。

◎タッチペンの持ち方

中島 おはようございます。

 

伊藤 おはようございます。今日はよろしくお願いします。

1年半くらい前にOriHimeパイロットのさえさんと知り合う機会があって、OriHimeについていろいろ教えてもらったり、自分なりに考えたりしてきました。ですが、私にとってOriHimeに関してはさえさんだけが先生という感じで、違う体を持っているパイロットさんは、OriHimeに関しても違う感覚をもっているのではないか、と思っていました。それで、さえさんを通じて、寧音さんにコンタクトをとらせていただきました。

まず動画を拝見すると、寧音さんのタッチペンさばきのうまさは尋常じゃない気がするのですが、ふだんはえんぴつは使ったりするのですか?

 

中島 えんぴつは持つのに疲れてしまうので、文字を書くときはペンを使うようにしています。ペンだと筆圧がなくてもはっきり書けます。

伊藤 なるほど。確かにえんぴつは筆圧が必要ですよね。じゃあ、そのペンよりさらに筆圧がなくてもいいのがタッチペン、という感じですね。

 

中島 はい。

 

伊藤 タッチペンはどのくらい前から使っているんですか?

 

中島 iPadを使うようになってからで、iPadじたいは、中学2年生のときに担任の先生のすすめで使うようになりました。

 

伊藤 タッチペンだと使っていてもそれほど疲れない感じですか?

 

中島 はい。以前はタッチペンも電池を入れるようになっていて、重かったんですけど、いま使っているタッチペンは充電式で軽いので、それほど力を入れな

くても使えます。

 

伊藤 なるほど。ちなみに持つときはどんなふうに持つのですか?右手片手で持つんですか?

 

中島 いま母がそばにいるのでタッチペンを持ってきてもらいますね。

(お母さんが寧音さんの左右の手を手首が上下に重なるように整え、タッチペンをにぎらせる)

 

伊藤 ネイル可愛いですね(笑)

 

中島 母にやってもらってます(笑)

 

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伊藤 なるほど!そうやって持つんですね。右手の中指と人差し指でペンをはさんで、薬指を添えるような感じですね。それで手全体を動かすようにして書くんですね。薬指はコントロールしやすい指なんですか?

 

中島 薬指はもともと伸びているんです。だから、タッチペンを押さえやすいんです。

 

伊藤 指によって動かしやすさは違いますか?

 

中島 はい。手によっても違います。右手だと、親指がいちばん動かしやすくて、左手だと人差し指と親指が動かしやすいです。

 

伊藤 両手で協力しながら作業をすることはありますか?

 

中島 今みたいにペンを持つときは両手を使っています。あと、横になっているときと、座っているときでは、使う手がちがいます。

 

伊藤 今は横になっていますが、左手で右手を支えているという感じですか?

 

中島 はい。

 

伊藤 座ると手の使い方が変わるって面白いですね。

もう少し体のことを伺いたいですけど、横になった状態でしゃべるときに、呼吸が苦しくなったり、言葉が出にくかったりすることはありませんか。

 

中島 早いスピードで話していると呼吸が苦しくなったりします。息つぎとかも苦しくなるので、どうしてもしゃべるスピードはゆっくりめになります。

 

伊藤 息切れみたいな感じですか?

 

中島 そうですね。長く息が続かないんですよね。

 

伊藤 じゃあ、興奮してきても抑えめでしゃべるっていう感じですね(笑)

 

中島 はい(笑)

 

伊藤 不随意運動とかはないですか?

 

中島 それはないです。

 

伊藤 食事は座ってとられているんですか?それとも横になった状態でですか?

 

中島 食事のときも横になった状態です。

 

伊藤 飲み込むのは難しくないですか?

 

中島 小学校4、5年生くらいまでは座って食べることもあったんですけど、飲み込みが難しくて、最近ではもう今のように横になって食べています。

 

伊藤 なるほど。横になったほうが飲み込みやすいんですね。

 ちなみに好きな食べ物は?

 

中島 パスタが好きです。

 

伊藤 えっなんか難しそうな気がするけど(笑)

 

◎自分がそこに存在している感じ

伊藤 最初にOriHimeを使ったのはいつですか?

 

中島 最初に使ったのは、高校1年生から2年生にあがるときの春休みです。今から2年ちょっと前です。

 

伊藤 最初に使ったときはどんな状況で使ったんですか?

 

中島 知人がレンタルしているロボットに入って、福岡の小倉城の夜桜を見ました。

 

伊藤 散歩するみたいな感じだったんですね。そこは行ったことがある場所だったんですか?

 

中島 いいえ。でもそのときは、ほんとうにその場、そこにいて、そこにいる人と話している感じがしました。

 

伊藤 寧音さんはふだん横になって世界を見ていますが、OriHimeはふだん立った状態なので、カメラから見える世界は垂直ですよね。そのズレに違和感を感じたりしませんか?

 

中島 それはないですね。

 

伊藤 分身ロボットも横向きのほうがわかりやすいのに、とかはないですか?

 

中島 ないです。

 

伊藤 なぜですかね…

 

中島 OriHimeに映っている映像を、私が横になった状態で見ているから、実際に見ているのと同じなんだと思います。

 

伊藤 あ、なるほど。そうですね。そういう意味でも「行った感じ」って強かったんですね。実際にそこに行くのと、こうやってzoomでお話するのと、OriHimeで行くのとでは、どういうふうに違いますか。

 

中島 OriHimeだと、実際に行ったときに似ていて、自分が実際に存在しているような感覚になるんですけど、zoomはそれとは少しちがって、うまくは説明できないんですけど、ちょっと離れているような感じがします。

 

伊藤 なるほど。OriHimeだと「自分がそこに存在している感じ」がするんですね。それは、日によって、あるいは人によって、強く感じられるときと、そうでないときがあったりするものですか?

 

中島 毎回、行ったような感じはあります。

 

伊藤 すごいベテランなんですね!私はOriHimeをパイロットとして操作した経験は1、2回しかないので、寧音さんとは感覚の解像度が違う気がします。寧音さんにとって生身の体とOriHimeの関係はどうなっているんですかね。生身の体のことは忘れているのかな。

 

中島 そうですね。たとえば東京のカフェでアルバイトをしているときは、そっちのほうに気持ちが行ってる感じで、福岡の自宅にいるのを忘れちゃうこともあります。

 

伊藤 そうなんですか(笑)すごいですね。OriHimeで行く先が東京の場合と、福岡の場合では、感覚が違いますか。遠さを意識しますか。

 

中島 最初のうちは東京ということを意識していたんですけど、回数を重ねていくと、そういうふうに思わなくても行ったような気持ちになります。

 

伊藤 何度も行くことで感覚が変わるのは面白いですね。この前は大学の授業もOriHimeで出席したんですよね。

 

中島 はい。みんなで授業を受けている感覚になりました。

 

伊藤 寧音さんが操作するOriHimeは手の動きがものすごくなめらかに見えるのですが、あれはコツのようなものがあるんですか?

 

中島 最初のうちは慣れていなかったので、そんなにスムーズにはできていなかったんですけど、回数を重ねるうちに、手の使い方がだんだん体にしみついてきたのかなと思います。

 

伊藤 体にしみついてくる感じっていうのがあるんですね。

 

中島 そうですね。長い間やってると、慣れてくる感じはあります。

 

伊藤 あまり考えなくても、「こう動きたい」と思ったらスッと手が動くような感じですか?

 

中島 はい、そうです。

 

◎手を振り返せる嬉しさ

伊藤 同じパイロットでも、いろいろな人がいますよね。体は動くけど外出が難しい人もいれば、外出はある程度できるけど体を動かすのが難しい人もいます。寧音さんから見て、人によってOriHimeの捉え方が違うなと感じることはありますか。

 

 

中島 あります。私の場合は、OriHimeで遠くに行ったという喜びももちろんあるんですけど、それよりも、OriHimeで手を振ったり、拍手をしたり、見たい方向に顔を動かしたりできるのが大きいです。自分の気持ちを動きで相手に表現できるんです。

 

伊藤 なるほど。気持ちを動きで表現できるというのが大きいですね。さっき、OriHimeの操作になれてきて、それが体にしみてきたっておっしゃってくださいましたけど、それは自分の気持ちがそのままロボットに出ているということでもあるんですね。

 

中島 はい。

 

伊藤 相づちが打てたりすると楽しいですよね。

 

中島 はい。

 

伊藤 それができるとコミュニケーションの幅が広がるという感じですか?

 

中島 そうですね。生身だと、友達とかに手を振ってもらったりしても、自分はそれに振り返せないというもどかしさがあって、OriHimeはその気持ちを解決してくれる感じがします。

 

伊藤 あの、ちょっと細かくて失礼な質問かもしれないんですが、寧音さん表情筋柔らかくないですか?特に眉毛がめちゃくちゃうごきますよね。

 

中島 はい。(眉毛を上下に動かしながら)

 

伊藤 なんかさっきから、首をうんうんってうなずく代わりに、眉毛が上下して私に感情を届けてくれている感じがします(笑)。分身ロボットで寧音さんにあったら、ロボットの手を寧音さんの眉毛に感じそう。

 

中島 自分では意識したことないんですけど、他の方にも言われたことがあります(笑)

 

伊藤 見たい方向が見れる、というのも大きいですね。生身だと眼球が動く範囲になるから、もうちょっと後ろが見たいのに、というような気持ちになることがある、ということですよね。

 

中島 はい。

 

伊藤 ほんとうに「パイロット」という感じですね。

カフェにいくと、OriHimeがたくさんいて、OriHime王国に迷い込んだような感覚になるんですけど、パイロットさんどうしだと、ぱっと見て、そのOriHimeに誰が入っているか分かるものなんですか?

 

中島 なんとなく、違いを感じます。私の場合は、声で何となく違いを感じます。OriHimeの動きとか、気配で分かるという人もいます。

 

伊藤 ちなみに生身の寧音さんとOriHimeの寧音さんは似てるんですか?

 

中島 そうですね…OriHimeだと手をパタパタさせるのが好きなので、実際より活発な人になっていると思います。

 

伊藤 なるほど。接客業だとパイロットさんどうしの連携も必要になってくると思いますが、頻繁にコミュニケーションをとったりしますか。

 

中島 働いているときはチャットでほかのパイロットとか現場のスタッフとやりとりしています。困ったときはすぐにチャットで連絡がとれるので、つながっているような感じになります。

 

伊藤 チャットはテキストを打つんですか?

 

中島 そうです。OriHimeの操作とチャットを打つのの両立が私は難しいので、チャットは母に打ってもらいます。

 

伊藤 いままで最大のピンチはなんですか?

 

中島 そうですね…最大のピンチっていうほどでもないと思うんですけど、OriHime-Dに入っているときに途中で落ちてしまったりとか、指定していないような動きをし始めてしまったりしたことがありました。

 

伊藤 それは大変ですね。つねにお客さんに見られている仕事ですし。逆に印象深い接客はありますか?

 

中島 東京のカフェではないんですけど、大分で仕事をしたときに男の子が家族と来て、その場で絵を描いてくれたんです。それがすごく嬉しかったです。

 

伊藤 OriHimeってパイロットさんの状況や表情が見えない分、すごく想像力が刺激されて、生身で会っているよりもその人のことを考えますね。

今後、OriHimeを使ってやってみたいことや、使っていてこんな可能性を感じる、みたいなことはありますか?

 

中島 ライブとか映画館とか美術館とかで使うことがもっと増えたらいいなと思います。

 

伊藤 そうですね。そのためにはもっとあちこちに本体が置いてあるといいですね。

 

中島 スポーツとかライブとかで、「OriHime席」っていうのができたらいいなと思います。

 

伊藤 確かに。寧音さんはOriHimeさばきがうまいので、ダンサーとして出演もできそうですね。OriHimeの公演をOriHimeで見る未来とか、すごいですね(笑)

 2021/11/7 zoomにて