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宮城永久子さん

宮城永久子さんは20年前に自ら生活支援NPOを立ち上げた脳性マヒ当事者の方。社会の中で働いたり、豪快にお酒を飲んだりする姿もかっこいいけど、でも個人的にぐっときたのは夜3時におきてヘルパーさんが来るまでの孤独を楽しんでいるという話。QOLのためには生活介助だけだけでなく孤独も必要なのだと思う。


1976年愛知県生まれ。出生直後の高熱により脳性マヒの障害を負う。生活の多くに介助が必要になる。地元の小・中・高校で統合教育を受けた後、日本福祉大学に入学。一人暮らしを始める。大学卒業と同時に、社会福祉士の国家資格を取得し、上京。2001年NPO法人障害者生活支援センターインみたかを設立。理事長に就任。障害者のためのヘルパー派遣事業と相談支援事業を運営。運営面だけでなく、現場で働くピアカウンセラーとして活躍中。

 

◎歌うときに最初の音が出ない

伊藤 こんにちは、メールありがとうございます。

 

宮城 こんにちは、はじめまして。

 

伊藤 いきなりハードコアな質問なんですが、私は吃音があるので、しゃべろうとすると体がそのとおり動いてくれないという感覚があります。永久子さんの場合も、心で「こう動きたい」と思う動きと、実際の体の動きが一致しないということはありますか?

 

宮城 ぜんぶそうです。

 

伊藤 そこがどうなっているのかがすごく気になります。吃音と似ているのか、似ていないのか、知りたいです。

 

宮城 私は言語障害があるので、しゃべりたいときに声が出ないことはよくあるんです。わたしは全身が言語障害です。パソコンもキーボードを棒で押して使っているんですけど、なかなか押したところを押せない。でも、生まれてからもうそうなので当たり前という感じですね。

 

伊藤 なるほど。それは、体が緊張している感じですか?

 

宮城 そうです。首にいつも針金のようなものが入っていて、しゃべろうとすると、その針金がピンと張る、みたいな感じです。

 

伊藤 首輪みたいな感じ?

 

宮城 そうですね。

 

伊藤 「しゃべろうとすると」ということは、最初がやっぱり出にくいんでしょうか。

 

宮城 うん、そうです。

 

伊藤 そこは吃音と似ていますね。吃音の人で針金の感覚は聞いたことはないですが、呼吸が止まる感じがする、という人はいます。

 

宮城 私は呼吸が止まる感じはないですね。

 

伊藤 You Tubeに動画をたくさんアップされていますよね。

 

宮城 You Tube見ちゃったんですか(笑)

 

伊藤 見ちゃいました(笑)。動画のなかで、歌うときに最初の音が出ない、というシーンがありますよね。

 

宮城 出ないんですよお(笑)昨日も一本あげたんですけど、出ないんです。

 

伊藤 しゃべるときよりも、歌うときのほうが出にくいですか?

 

宮城 そうですね…酔っぱらってるから、酔っぱらってないときよりは声は出やすいですけどね。

 

伊藤 お酒お好きですよね。本のタイトルも『お湯割り、濃いめでお願いします』(エテルナ舎、2021)だし。やっぱりそれは飲んでいるほうが動きやすいからですか?

 

宮城 そうです。小心者なので、お酒を飲むと調子良くなるんです(笑)

 

伊藤 お酒以外に、言葉を出やすくする工夫はありますか?

 

宮城 あんまりないかなあ。よくしゃべるから、まあいいかな、と思ってます。

 

伊藤 なるほど。吃音だと、難発という、音を繰り返すような症状があるのですが、それに似た状態になることはありますか?

 

宮城 連発になることはよくあります。言葉以外にも、私は脳性まひで不随意運動があるので、手を伸ばしていたいのに、曲がってしまうというようなことはあります。

 

伊藤 なるほど。そういう体と、永久子さんはどんなふうにつきあっているのかが気になります。体って永久子さんにとってどういうものなのでしょうか。

 

宮城 こどものころは、できないことがすごく嫌でした。でも、できないことで人の手を借りて、そこから人間関係が生まれることもありますよね。だから、できないことはいいかな、と思っています。人間関係をつくるために私の障害が存在するっていう考えでも、まあいいかなって。

 

伊藤 おもしろいですね。そのあたりがメールに書かれていた「毎日がアトラクション」という感覚につながってくるのでしょうか?

 

宮城 そうなんですよ。障害があると人に声をかけやすいので、しょっちゅうナンパしちゃうんです(笑)

 

伊藤 ナンパのコツはあるんですか(笑)

 

宮城 私はモテないタイプなんですけど(笑)、お酒を飲んだら気持ちが大きくなって、そのへんの人に声をかけちゃうんですよ。「こんど飲みに行かない?」とか「私〇〇できないから手を貸してください」とか言っちゃって。そんなことを言われたら相手はやるしかないじゃないですか(笑)。

 

伊藤 ご著書を読んでいても、永久子さんは巻き込み上手だなあと思います。

 

宮城 ほんとうは臆病なんです。でも臆病臆病って言っていたら、人生始まっていかないですからね。この体でどうやって人生を楽しんでいくかが、私の課題かなって思っています。

 

伊藤 すばらしいですね。あの、わたしは永久子さんとお話をしてまだ15分しか経っていないので、永久子さんの表情のパターンとか、しぐさの意味とかを、まだちゃんとキャッチできていない気がします。永久子さんが笑ってほしいといきに笑っていないかな、とか少し不安になっています。でもこれが、おつきあいする時間が長くなってくると、たぶんいろいろなことが分かってくるんだろうと思います。永久子さんのほうで、初対面の人と話すときにギャップを感じたりすることはありますか?

 

宮城 私はそういうところはわりと無頓着です。でも仕事では(人材の採用のために)いろんな人を面接するので、初対面だと「何でこの人は今笑ったんだろう」と思ったりはします。仕事の場面ではきちんと見ていきますけど、プラベートではけっこう無頓着かなと思います。

 

伊藤 なるほど。体を触れられることについてはどうですか。びくびく触る人と、あまり気にせずがっと触る人といるんじゃないかと思うのですが、そういう違いは感じますか。

 

宮城 私は触られるのは抵抗ない人なので、どんどん触って、という感じです。いろんな人の介助を受けるなかで、びくびくしている人は介助の場面ではあぶないので、それについてはきちんと伝えます。

 

伊藤 どうやってびくびくしている人をリラックスさせたり、もう少し違う関係に進めたりするんですか?

 

宮城 やっぱり人間関係を構築していくということだと思います。あとはもっとしっかり触って、とい言うとかね。

 

伊藤 ふだんの生活をサポートするヘルパーさんは固定なんですか?

 

宮城 いや、流動的です。だいたい決まってますけど、私は新しいヘルパーをどんどん入れていく立場なので。私の体で介助を覚えてもらって、ほかの利用者さんに送り出していくという感じです。

 

伊藤 介助の先生であり実験台でもあるという感じですね(笑)

 

宮城 はい、実験台だと思っています(笑)

 

 

◎ひきこもりの人を車椅子で送り迎え

伊藤 面談ではどんな話をしますか。

 

宮城 いろんな人がいます。お金の管理のような一般的な相談から、引きこもりの支援や精神障害の人向けのカウンセリングとか、ヘルパーの育成から、全部やります。

 

伊藤 かなり専門的な内容も多そうですね。

 

宮城 多いかもしれないですね。でも私が利用者と動くことで、私が直接的な支援ができないから、利用者の人も「ああ、自分が動かないと始まらないんだな」ということが分かります。「宮城はそばにいてくれるけど、動くのは自分だな」と思ってくれるようにはなります。

 

伊藤 やっぱり他の人にはできない、永久子さんならではの寄り添い方があるということですね。

 

宮城 そうですね。面白いなと思ったのは、利用者を市役所の窓口に連れていったときに、市役所の人が私の言葉を分からなくて、利用者が「宮城さん、いまこう言ってます」って通訳し始めたことです。利用者自身のことなのに(笑)。「あなたのことなんですけどね」って思いながらやりとりしていました。

伊藤 永久子さんだからこそ、利用者さんのいい能動性を引き出せるんですかね(笑)

 

宮城 そうなんですよね。

 

伊藤 永久子さんをサポートするのが最初のステップになって、それが自分のことにつながっていくのかもしれませんね。面白いですね。

 

宮城 本にも書いたかもしれませんが、ひきこりの人がいて、その人に作業所に通ってもらうのに、私が車椅子で送り迎えをずっとしていたんですよ。そうしたらある日、「宮城さん、大変だからもういいよ」って言われました(笑)。「次からもう一人でいくよ」って。

 

伊藤 どっちがサポートしているのかよく分からなくなるフェーズが訪れるのが重要なんでしょうね。

 

宮城 そう、そこが分からなくなってくるんですよね。

 

伊藤 でもいつもサポートされるばっかり、するばっかりだとつらいですよね。される時間もする時間もあるというのが、人間にとってはいいバランスなのかなと思います。永久子さんも両方の時間を持ってるし、利用者さんも両方の時間を持っていますね。

 

宮城 だから私も利用者さんによくサポートしてもらうことがありますね(笑)

 

伊藤 わたしの知り合いで全盲の人もずっと料理のワークショップをしているのですが、彼はまったく料理をしないんですよね。作り方と料理の背景をきっちり調べて、それをお客さんに渡すのですが、実際にはお客さんが手探りで一生懸命作ることになる。どっちがサポートしているのかよく分からなくなるんです。

 

宮城 そのくらいがいいんですよね。

 

伊藤 生活の中での工夫についてもうかがいたいのですが、メールはお父様が作られた棒でキーボードを押しながら書いていらっしゃるんですよね。

 

宮城 そうです。

 

伊藤 それはどのくらい時間がかかるものですか?

 

宮城 100文字で30分くらいですかね。

 

伊藤 となると、かなり源泉してメールを打つことになりますよね。

 

宮城 そうですね。年々遅くなってきてますね。

 

伊藤 私と永久子さんはほとんど同世代ですが、何かエイジング対策はしていますか?

 

宮城 体力維持のために毎日トレーニングに行ってます。となりのマンションに整骨院が入っているんです。そこでトレーニングを見てくれるので、足をあげたり、寝たままでエアバイクをしたり、やっています。

 

伊藤 近所にお酒飲むところも体鍛えるところもあっていいですね(笑)

 休日はどんなふうに過ごされているんですか。たとえば今日はどんなふうに過ごしましたか。

 

宮城 今日は寝てました。昨日は仕事だったので疲れちゃって。 

 

伊藤 土曜日もお仕事があるんですね。

 

宮城 土曜日はほとんど利用者と遊んでいるだけなんですけ、ほとんど出かけています。

 

伊藤 じゃあ、家にいるのは実質日曜日だけなんですね。

 

宮城 いや、一昨年まではもっと働いていたんですけど、今年度からはもっと自分のことをやろうと思って、水金日は家にいることが多いです。

 

伊藤 自分のことをやろう、というのは本を書くということですか?

 

宮城 そうですね。あとはYouTubeをやることですね。2021年の2月くらいに始めました。

 

伊藤 何かきっかけはあったんですか?

 

宮城 ヘルパーさんが、「YouTubeやったら宮城さん面白いんじゃない?」って言ってくれて。「恥ずかしいもん」って言ってたんですけど、「やりなよやりなよ」って。それでやってみたら案外おもしろくって(笑)。「芸人よりも面白い」って言われて嬉しかったです。

 

伊藤 小学校のころもけっこうまわりを笑わせていたって本に書かれていましたよね。

 

宮城 そうですね。でも、いまヘルパーさんと自分のアルバムの整理をしているんですが、小さいころは暗黒時代ですね。小さいころの自分はあまり好きじゃない。

 

伊藤 やはり実家を出たというのは大きかったですか?

 

宮城 大きかったですね。自分を好きになれたのは実家を出てからですね。

 

伊藤 その決定的なきっかけは何ですかね。

 

宮城 (障害のあるピアカウンセラーに)障害があってもいいよ、介助をうけてもいいよ、と言われたことですね。もちろんできることは一生懸命やるけど、できないことはやってもらってもいいよ、と言われたことが自分を変えてくれました。

 

伊藤 小さい頃は人に迷惑をかけてはいけない、というのがあったんですかね。

 

宮城 そうですね。

 

伊藤 もう実家を出てからのほうが長くなりましたね

 

宮城 18歳のときに出たので、そうですね。

 

伊藤 18歳のときと今とでは、支援の状況など社会的な環境は変化していると思いますか。

 

宮城 一人暮らしを始めたのは愛知だったので、介助は学生のボランティアでした。やっぱり学生ボランティアだと、お金も発生していないし、使命感もない感じだったんです。でも22歳で東京に出てきてからは、ヘルパーという職業の人が責任感をもって介助してくれるので、すごく楽になりました。約束の時間に来てくれるし、いろんなことをやってくれる。

 

◎実は孤独を愛してる

伊藤 20年間となるとすごい歴史ですね。でもその中でも昨年は新型コロナウイルスでかなりいつもと違う年になったのではないですか。

 

宮城 二年くらい前から体の調子が悪かったんです。もともとは体が強いので、ぎりぎりまで無理をして救急車で運ばれたりすることがあって、やばいなと思いました。健康ではあるけれど、体力も落ちているし、暮らし方を変えようと思ったんです。いまの会社をもう20年やっているので、そろそろ自分のために生きてもいいかなって。そんなときにコロナウイルスが流行ったので、自分を見直す時間になりました。

 

伊藤 今後の計画はもうあるんですか。

 

宮城 今年度一年間はとりあえず休みたいなと思っています。一年休んだら、私、死ぬまでに自分の人生を振り返る本を書きたいなと思っているんです。その準備を徐々にしているんですが、それを書いて死んでいけたらいいなと思っています。

 

伊藤 それがさっきの写真の整理ですね。

 

宮城 そうです。

 

伊藤 でも暗黒時代を振り返るのはちょっとしんどくないですか。

 

宮城 けっこうしんどいですね。母親が生きているうちに、もういちど実家に帰らなきゃいけないかなあと思っています。向こうはそう思ってないけど、私は母親とあまり折り合いがよくないんですよね。いちど母親に向き合わないといけないなと思っています。

 

伊藤 本を書くときもパソコンを使うんですか?

 

宮城 自分で打たないと考えがまとまらないんです。人に打ってもらうのはあんまりできないですね。

 

伊藤 面白いですね。自分で打たないと考えがまとまらないんですね。さっきのお話だと、パソコンで文字を打つのに一文字ずつじっくり打つ感じなのかなと思うのですが、そのスピードと考えるスピードをどうやってリンクさせるのか気になります。

 

宮城 いや、リンクはしてないです。これ自分でも面白いと思うんですけど、パソコンで殴り書きというか、ほとんど誤字ばっかりの文章になっちゃうんですけど、とりあえずばーっと打っておいて、それを、あとからゆっくり直していくんです。いまそういうやり方をしています。

 

伊藤 なるほど、そうなんだ!

 

宮城 殴り書きなので、何を書いてるか自分でもよく分からなくなったりするんですが(笑)

 

伊藤 そうやって思いついたことをとりあえず打ち込んでいるんですね。

 

宮城 そうです。片手で棒を持って打っていきます。棒のさきっぽはゴム手袋の指です。

 

伊藤 それで打っていくんですね。殴り書きで書いていくときは、テンションが上がって楽しそうですね。

 

宮城 休みの日は、朝早く、3時くらいに起きて書いています。ヘルパーが8時半に来るから、3時くらいから8時半までの時間帯に執筆しています。

 

伊藤 ヘルパーさんがそばにいないほうが執筆ははかどるんですね。

 

宮城 私、人といるのがあんまり好きじゃないんです(笑)。

 

伊藤 (笑)

 

宮城 すごい矛盾してるのはよく分かっているんですけど、私は実は孤独を愛する女なんです(笑)

 

伊藤 じゃあ、その朝の時間はすごく大事な時間ですね。

 

宮城 そうそう。人といっしょにいたり、人前で話したりするのも全然苦じゃないんですが、ほんとは孤独を愛しているんです(笑)

 

伊藤 すばらしいですね。やっぱりひとつひとつの言葉の使い方は一人でいる時間に作られるものですよね。でも3時に起きるには何時に寝るんですか?

 

宮城 8時半くらいです(笑)さいきんは元気なんですけど、4月5月はちょっと鬱っぽくなっていたんですが、コロナの影響で人と会わなくていいって国が言ってくれたので、助かりました(笑)。

 

2021/6/20 zoomにて