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小福さん

小福さんに、統合失調感情障害の経験についてお話をうかがいました。幻聴が実際にどんなふうに聞こえるのか(さんま登場は調子悪いサイン)、なぜ言い間違いが起こるのか(それはまるでナイツの漫才)、初めてのお話ばかりで聞き入ってしまいました。誇大妄想と量子生物学の結びつきなど、研究者の道を歩んでいたからこその展開も。病気のことを言葉にするという大変な作業に向き合ってくれた小福さんに感謝。


小福さんプロフィール
東京工業大学生命理工学部卒
東京大学大学院新領域創成科学研究科情報生命科学修士号取得(現、メディカル情報生命専攻)
在学中より闘病し、研究の道を志すも挫折。現在は税理士を目指して勉強中。

 

◎誇大妄想と量子生物学

伊藤 母校とはいえ初対面の人と話すのって緊張しますよね。しかも録音とかしちゃうと余計プレッシャーがかかりますよね。

 

小福 あー大丈夫です。

 

伊藤 答えを探しながら話すつもりでのんびり進められたらなと思います。まず最近の調子はどんな感じですか?

 

小福 前は結構波があって、上がったり下がったりっていうのが必ず毎月あったんです。

 

伊藤 1か月の中にも波があったんですね。

 

小福 そうですね。生理に合わせて下がったりしてたんですけど、いろいろ治療して、だいぶその波が小さくなりました。最近はそこまで波が大きくなくなって、少し過ごしやすいですですね。

 

伊藤 波が生理と一緒になってくるんですね。大変なときだとどんな感じになりましたか。

 

小福  一番危険視されるのは上がる時です。妄想がちになって、イケイケな感じ、誇大妄想って言う「自分は何でもできる」みたいな感じになっちゃったり、もっとひどいと恋愛妄想って言って、好きな人に対して相手が全然その気がなくても相手は自分のこと好きなんだって思い込んで、それこそイケイケでその人に向かってちゃったりします。恋愛妄想まで行っちゃうとだいたい入院しちゃうんですけど、普段の波だったらまあ誇大妄想ぐらいで、ノーベル賞とれるような気がするぐらいですね(笑)。それが上がった時です。そうなると過活動で、ずっと起きたままだったり、睡眠時間が短くなったりします。それでまたがんと落ちると、動けなくなって、ずっと寝てたいみたいな感じ。そういう波があります。

 

伊藤 上がるときの方が危険なんですね。

 

小福 上がるときのほうが、自分で調子が悪いと思わないんですよね。調子がいいから自分は前より動けるんだ、みたいなふうに錯覚しちゃって。それがやっぱり危険で、下がった時は調子悪いという自覚があるから対処できるんですけど、上がれば上がるほど自分は大丈夫、治療も要らない、治ったんだ、みたいな感じですね。

 

伊藤 その時は周りの人の声も聞こえなくなりそうですね。

 

小福 調子を崩して上がれば上がるほど 周りの声を煙たく感じます。医者とか母とか忠告してくれる人の声を聞けなくなればなるほど、調子が悪いっていう判定をされる。

 

伊藤 ますます認識がぶつかっちゃうんですね。

 

小福 結構攻撃的になります。多幸感があってなんかニコニコしてハイテンションの時はまだいいんですけど、結構イライラしてくる躁状態の時もあって、そういう時とかはかなりハードなバトルになったりします。「今調子悪いから」って言われても聞き入れなくて、そういうときは強制的に病院に連れて行かれるという感じなんです。

 

伊藤 本人にとっても自分に見えてる世界とみんなから言われることのずれがあるからつらいですよね。周りの人が信じられなくなったりしそうです。

 

小福 人によるのかもしれないんですけど、私の場合は、なんでも言いたいことが言えてるかぎり、主治医でも母でも信頼関係自体は崩れませんでした。「あれだけ言ったのに受け止めてくれてた」という経験があるから、信頼関係自体は大丈夫でした。

 

伊藤 なるほど。恋愛妄想や誇大妄想の内容は、今でも覚えていますか。さっきノーベル賞の話がありましたが…

 

小福 覚えています。自分が実際に今研究をしているわけでもないのに、この先自分はノーベル賞とれるんじゃないか、そういうすごい研究ができるんだ、みたいなふうに思っちゃって、そうなると本を読んでいても、自分は今すごいいいアイディアを思いついたんじゃないか、それを本にまとめたら注目されるんじゃないか、電子書籍なら出せるんじゃないか、とかそんな感じにどんどん膨らんでいってしまって。私が学生時代の先生に「君のアイディア面白いね」って言われることが多くって、その先生と仲良くさせていただいたり、いろいろ話を聞いていただいたりすることが多かったんですけど、そういう過去の栄光にすがってしまう。今は研究はやっていないのに、自分のアイディアはすごくいいんだ、ノーベル賞級なんだ、みたいなふうに思っちゃって。

もっと具体的に言うと、私は量子生物学っていうのが好きで。量子生物学っていうのができ始めたのは最近なんですけど、大学生の時からなんか好きだったんです。でも量子生物学が好きだった時点で結構病的で、自分自身は生物は勉強したんですけど物理は全然やってなくて、本を読んでも全然わからないっていうのが本当のところなんですけど、なんかその「量子」っていうトピックスがすごい気に入っちゃったみたいで。それで世界の真理を表せるんだ、みたいなところですよね。精神障害者ってよく真理を分かったって言う人がいるみたいなんですけど、 自分は世界の秘密を量子で説明できるんじゃないかっていうのをすごい思っちゃって。物理学で統一理論みたいな話を聞いたときに、生物の私達がわかってないメカニズムっていうのが、量子で説明できるんじゃないかって思ったんです。生物のメカニズムって、私たちの体がロボット的に、古典物理学的に動いてるっていう前提で計算すると、人間ではないものができてしまうけれど、もし量子コンピュータが出来て、量子コンピューター的に計算できるんだったら、生物のシステムが説明できるんじゃないか、と。その概念に取りつかれちゃって、 それを考えると割と調子悪かったり、自分は真理に近づいてる、みたいな錯覚をしていて、それが誇大妄想になっていましたね。

 

伊藤  その「真理に近づく」というのは、前提として、「真理を明らかにしたい」という欲求があるということなのか、それとも先に何かが見えてしまって、そこにいろいろなものがくっついて、解釈が拡大していくという感じなのか、どちらですか。

 

小福 最初に量子についての話題に気づいた頃っていうのは、まだそこまで病的じゃなくて、まだそこそこ学校に通っていました。その時は真理を探求したいっていうよりも、なんか面白いアイディアを探して、普通の学生がやるみたいに日経サイエンスとかを読んだりしていました。そのときに、デイヴィッド・ドイッチュっていう理論物理学者の多世界解釈っていうのがあって、この世界がパラレルワールドなっていて、宇宙がいっぱいあって、みたいな話があって、そういうのを読み出して、だんだん「こっちなんじゃないか」「普通に私たちが生きて普通に知覚している世界じゃなくて、見えないところに真実があるんじゃないか」ということ自体にどんどん取り憑かれていって。だから真実を探求しようとしてって言うよりは、そのアイディアとか概念が先にあって、そこから広がっていっちゃった感じだと思うんです。結構ワクワクして、自分の中では「見つけてしまった」「みんなは分かってないけど」みたいな感じでした。

 

伊藤 でもそう言われると逆にバランス取れている人が不思議に思えてきますよね。「世界がいくつもある」っていう科学的な認識と、ふつうにこの世界で生きるということが、どうやったら両立できるのかなと思えてきます。世界観そのものについての研究なわけで、感覚できている世界をうたがいながら研究するというのはちょっと怖いことですよね。

 

小福 確かにそうですよね。

 

伊藤 自分がアイディアで満たされているときの幸福感ってあるなあ、と思うのですが、子供のころからそういうことに幸福感を感じるタイプだったんですか?

 

小福  子供のころはそういうタイプじゃなかったんですね。読書とか好きだし、勉強も好き、知的好奇心はすごいあったけど、ポンポンとアイディアが出るようになったのは、それこそ病気してからです。妄想力じゃないんですけど、病気によってアイディアが入ってくるみたいなのは、思春期になって、ホルモンの影響が出るようになってからですね。小学生までは人と違って変な感じはなかったんですけど、だんだんそういう感じが出てきちゃったりすると、人との関係もストレスになってきました。病名がついたのが大学に入ってからです。

 

◎下がると行き倒れ

伊藤 病名が「統合失調感情障害」とおっしゃっていましたが、これは「統合失調症」と「気分障害」の波が二つ別々に来るということなのですか?

 

小福 そうですね。躁状態の波と陽性症状という統合失調症の波がぶつかったときが一番ひどくて、そういときは入院ですね。

 

伊藤 10代のころから波がひどかったですか?

 

小福 10代の頃は、波が大きいなとは思ってたんですけど、そこまでひどい波がなくて、睡眠障害があったくらいです。 薬をもらったりして、訳わかんなくなっちゃうというところまではいっていなかったです。

 

伊藤 なるほど。薬を飲みながら共存するというか、波にノるというか、えっと、どういう表現が正しいのかな…

 

小福 あんまりうまくはないですね。波とうまくつきあって、活動的な時に仕事して、それから休んでっていう方もいらっしゃるんですけど、私はそこまでまだうまくノれていない感じがします。

 

伊藤 病院に通いながら、今後は波と上手くやっていくっていうことが目標になってくるんですかね。

 

小福 そうですね。

 

伊藤 さっきの波が上にあがったときの話は伺ったんですけど、逆に落ちたときはどんな感じですか。ベッドから出られないような感じですか。

 

小福 ベッドから出ても、リビングで寝転がってることとかが多くて、なんかこう「行き倒れてる」みたいな感じですね(笑)。一応起きては来たけど、布団に戻るまでもなく、その辺で転がってる。グダグダしてますね。

 

伊藤 起きてはいるけど体がもう動かないという感じ?

 

小福 私は気分の落ち込みっていうのが人より少なくて、上がったときの波が高いんです。下がる人の中には泣いたりとか死にたいとか、そういう方も結構いるんですけど、そこまで下がることは滅多にないです。たまに泣くことはあるんですけど、それも珍しいぐらいで、だいたいグダグダ寝てる感じです。

 

伊藤 なるほど。下がるのは生理が来たときですか?

 

小福 生理前の排卵の時に、排卵をさせるための刺激でホルモンやドーパミンが出るんですが、その時にハイでひどくなります。それが大体2週間ぐらいあって、生理が始まる頃にはもう結構下がってきます。

 

伊藤 それが大体の1ヶ月の周期で繰り返されるということは、何日に来るということがおおまかに予測できるということだと思うのですが、その予測がつくということは、良いことですか。それとも逆に恐怖になったりしますか。

 

小福 予測できると、その日は約束を入れないようにしよう、とかそういう対策ができるというのはあるんですけど、予測どおりに行かない時の方が困ったりして、友達と会う約束を入れてたのに調子崩しちゃってキャンセルしなきゃいけなくなったりします。

 

伊藤 ぴったり予定通りっていうわけには行かないですもんね。

 

◎言い間違えと幻聴

伊藤 メールで「ナイツみたいに言葉が違う言葉にスライドしていく」ということを書いてくださっていましたが、あれはハイのときですか?

 

小福 ハイのときです。言い間違えなんですけど、カタカナの単語とかを正確に言えなくて。なんかちょっと違うふうになっちゃったりとかするんです。名前、固有名詞が多いですね。

 

伊藤 なるほど。「ほうじ茶」とかはあまり間違えないですね。

 

小福 日本語だとあまり間違えない…でも人の名前は漢字もダメなんですけど、カタカナが弱いです。単純な言葉でも、私が書く手紙は誤字脱字が必ず入ってるからって友達に言われるぐらい、簡単な漢字を間違えてて。あと演劇部だったんですけど、演劇の「劇」っていう字を何年間も違えて覚えてたり、英語のスペルを何年間も間違えて覚えたり。

 

伊藤 「げき」って読む別の字に間違えたってことですか?

 

小福 いや、演劇の劇の細かい部分間違えて書いちゃっていたんです。パソコンで打つときに変換されたものを選ぶのはできるんですが、手書きだと間違える。「以外」と「意外」とか、そのぐらいのレベルのことを間違えたりとかして。私日記を書くんですけど、かなり間違えているんですね。

 

伊藤 それは気持ちがすごいスピードアップして書いてる時にも先のことを考えて手元に注意が行ってない、みたいな感じなんですか?

 

小福 そこまでスピードアップしてなくても、何も考えずに書くときに「以降」を「移行」って書くぐらいのレベルです。

 

伊藤 それは出来事として自分でも不思議な感じなんですか?

 

小福 〇年日記っていう毎年見るやつで日記を書いているんですが、書いているときは気づかなくて一年後に気づくんですよね。ほかの人から指摘を受ける場合も、私があまりにも普通に間違えるんで一瞬わかんないって言うんですよ。なんか堂々としてて「私は間違えてません」って感じで間違えるので(笑)。調子が悪ければ悪いほど自信があるので、怒るらしいんですよね。「いや、私は間違えてないし、間違えたとしても大したことじゃない」って。相手から言われて「あ、そうだね、間違えたね」って言える時はわりと軽傷です。調子が悪ければ悪いほど、「言われるほど大したことない」ってなんか怒るんですよね。

 

伊藤 ご自身のなかからいろんな反応が出てくるんですね。「怒るんですよね」っていう言い方がすごく面白いなと思いました。自分のことなのにちょっと出来事みたいな距離がありますね。

 

小福 最近はそんな感じじゃないんですけど、昔はすごく怒ってました。しゃべってるときに、全然違う言葉が入ってるんだけど、本人は堂々としゃべってました。書いたものは自分で気づけても、しゃべっているときは気づかないことの方が多かったですね。

 

伊藤 その言い間違えというのは、妄想と近い部分はあるんですか?

 

小福 一番調子の悪い、入院するときなんかは、頭の中でその間違えたりするのをずっと喋り続けてるみたいな感じです。だから私の中では妄想より幻聴に近いです。 頭の中の別の思考回路でずっとラジオかテレビをつけてるみたいにずっと喋ってて、それが結構間違えるんですね。自分が視聴者みたいな感じで聞いてるから、なんかおかしいなって思うんですけど。最近は減ったんですけど、幻聴みたいに聞こえるっていう時が寝る前のもうすぐ寝そうっていう時に頭がぼーっとしてて、ほとんどフリーズしてきたぐらいのときに結構わあわあわあわあって喋り出すっていうのがあって。頭が緩んでるっていうか、そういう風にしゃべりだしたら「あ、寝るんだなー」と思って、そう思っていると寝ます(笑)。

 

伊藤 へえ〜私はそんな経験がないのでかなり衝撃的なのですが、まずそのラジオって何をしゃべってるんですか?

 

小福 私は芸能人の耳につく声が聞こえちゃったりすることがあって。これは精神障害あるあるらしいんですけど、明石家さんまの声が一番耳につくんですよね(笑)。引き笑いとか、あの高速でしゃべる感じとか。やっぱり幻聴ってその時に聞こえてる音べースで聞こえてくるので、例えば時計がカチカチ鳴ってるとか、自分の息吸ってる音とか、鼻息とか、なんかそういう音を勝手に拾って、しゃべってるみたいに聞こえるんです。けれどさんまの声が聞こえたら結構重症なんですよ(笑)。 あ、聞こえちゃったみたいな感じですね。家族の声とかじゃなくて、テレビでさっき見た人の声とか、あとは全然誰の声だかわかんない声っていうのが一番多くて、それで自分のことを見られてるとか、中継されてるという感じになったりします。「あ、今〇〇をやったな」とか「そりゃおかしいんじゃないの」とか、そういう感じで自分を中継されているテレビみたいな感じのときもあるし、自分とは関係ないことを言ってるそれこそ本当にラジオみたいなときもあります。

 

◎    自分にふりまわされる

伊藤 さっきのラジオみたいのが聞こえるっていう幻聴の話なんですけど、統合失調症の方のなかには、幻聴の原因を自分の外に置く人がいますよね。「誰かが換気扇から話しかけてる」みたいな。一方で、その変形なのかもしれないですが「脳に埋め込まれた」みたいにおっしゃる人もいますよね。でも小福さんのお話は、そのどっちでもないような気がするのですが…

 

小福 埋め込まれた、とは思わないですね。何かよく分からないシステムが作動している感じです。 

 

伊藤 最初に幻聴が聞こえた時からそういう感じなんですか?

 

小福 最初に幻聴があったのは、入院するより前に妄想と幻聴がわあっと出ちゃって、1週間くらいおかしかったときです。そのときは、それが幻聴だとか妄想だとかいう知識もないし、そういうふうには思わなかったですけど、入院した後は、勉強もして。「あーこれは病気なんだ」っていうのが分かってたこともあって、妄想自体はそこまで分離できないんですけど、幻聴は「あ、また自分の頭が興奮してるのかな」という感じで、自分の性格と病気がくっついちゃって、何がどっちだか分からない、ということはないですね。「あ、あれは疲れているんだな」という感じに思えていました。

 

伊藤 自分の輪郭と切り離せる症状と切り離せない症状が両方あるんですね。

 

小福 そうですね。妄想のほうが重くて、自分の人格でそれがやりたいことなのか、病状でやりたいのか、分からなくなっちゃうんです。恋愛妄想も、これはふつうの片思いなのか、病気で好きと言っているのか切り離せない時期もあって、そうなるとごっちゃになってきちゃいますね。

 

伊藤 なるほど。「これはどっちなんだろう」とは思うんですね。

 

小福 「どっちなんだろう」とはかなり思いますね。

 

伊藤 となると病気と関係ない感情であったとしても、どこまで信じていい感情なんだろうって思ってしまいそうですね。

 

小福 その感情が病気のせいなのだとしたら、病状が変わっていくと感情も変わっていっちゃうんですけど、でも自分自身がそう思っているんだとしたら、それは大事にしなきゃいけない気持ちだから、病状かそうじゃないかという判定は、自分のなかでよくしていました。

 

伊藤 感情は対人的なものが多いですか?

 

小福 誇大妄想に関しても、自分は本当に理系の研究者をやりたいのか、ほんとうは専業主婦がいいのか、妄想にひきずられてしまうと、本当に自分がやりたいことが見えなくなっていってしまいます。病状にかかわっていることだと日替わりで変化していくんですよね。きのうまではああやって強く思っていたのに、今日は違う、みたいな。そうなっちゃうと、自分にふり回される、という感じになってしまいます。

 

伊藤 なるほど。日記を書いたりするのは、そういう変化をとらえるのに役立ちますか?

 

小福 自分の波がよく見えて面白いです(笑)。

 

伊藤 どっかで観察している研究者の視点がありますね(笑)。

 

小福 統合失調症がこの世にある意味を考えたときに、都市部だけでなく農村部や原始的な生活をしている地域にもいることを考えると、人類にとって必要なものなんじゃないかと思うんです。古くから、大事なことが聞こえる統合失調症者は預言者みたいな役割を与えられていますが、自分みたいな大事なことが聞こえない人は、ハズレっていうか(笑)、そっちじゃないからだめなのか、とも思う。でも、それとは違う能力として自分が病気になってから得たものがあって、それは真理の探究や真実を追い求めるという気持ちやひらめきで、そっちもやっぱり保存されるべきものとしてあるんじゃないかっていうのは気になっています。

 

伊藤 そうですよね。統合失調症といってもいろいろなタイプの人がいて、シャーマンみたいな特殊な位置づけになってきた人もいれば、もう少し違うタイプの人もきっといたはずですよね。

 

 

◎医師と関係

伊藤 お薬のこともうかがいたいのですが、いまは西洋医学と東洋医学両方を使っていらっしゃるんですよね。

 

小福 西洋医学の薬もいろいろ試して、最終的に自分にあっているものにたどりつきました。東洋医学と違って、西洋医学であっていない薬を飲んでいると、ものすごいストレスなんですよね。これは体のために飲まなきゃいけないんだ、と言われても、飲みたくないくらい、頭をおさえつけられておもりをのせられたみたいに感じたり、体におもりをのせられたり、とにかく「おさえつけ感」が強くてつらかったです。東洋医学の場合は気血水を回す薬なので、飲んでいると体があたたかくなったり、おさえつけている感じではなかったので、飲んでいて心地よかったです。合わない、というと漢方医はすぐに調節してくれる。西洋医って、薬を変えるのに時間がかかるんですよね、切り替えるときに、薬を抜いたりしなきゃいけないので。東洋医学だけでも治らないと思うので、両方を使いながら、というのがいいのかなと思っています。

 

伊藤 東洋医学の「回す」という感覚は、波が落ちて家のなかで行き倒れになっちゃってるようなときに作用するという感じですか?

 

小福 上がる方も、上がり方がひどくなくなります。私は抑肝散というのを飲んでいるんですけど、肝にストレスがかかって変な感じになっているのを抑えるという薬です。漢方の考えでは、肝が悪いと、イライラしたり、おこりっぽくなったり、頭に血がのぼりやすくなったりするので、それがなくなると、ヒートアップする感じが抑えられて、上がりが少なくなります。上がりが少なくなると、行き倒れのときも、下がりが少なくなります。

 

伊藤 上がる方と下がる方は関係しているんですね。

 

小福 上で疲れちゃった分、下で休んでいるんです。

 

伊藤 なるほど。漢方は波の幅を小さくしてくれる感じですね。

西洋医学の先生への通院はどのくらいの頻度ですか?

 

小福 いまは月一回です。

 

伊藤 最初からその先生とは相性がよかったんですか?

 

小福 最初は、その恋愛妄想をしたのがその先生に対してだったんです。それが5年くらいありました。先生は結婚しているんですけど、自分は恋愛妄想になっちゃってて、でも先生は恋愛妄想している状態というのを認めつつも、それを受け入れる感じでした。それで腹を割って話せるんならいいじゃないか、と。担当医を変える人もいるんですけど、それでぶつかったというか、言いたいことを言う期間があったので、ふつうの今までの西洋医学の先生よりは、関係性がよくなりました。

 

伊藤 「恋愛妄想だということを認めつつ、受け入れる」というのはどういう感じだったんですか?「それは恋愛妄想だ」って言われたら傷つきますよね。

 

小福 最初は恋愛妄想じゃないって先生は言ってたんですけど、だんだんよく分からない感じになって、でもこっちが恋愛妄想だから担当を変えてくれっていったんです。最初の頃は病院に行くたんびに調子をくずしていて、入院も何回もしたんですけど、入院すると先生と会うからよくならなくて。恋愛状態になってホルモンの値があがっちゃうと調子悪いんですよね。このまま落ち着かないんじゃないかと思っていたんですけど、その先生にあう前から、私の恋愛ってほとんど恋愛妄想で、相手は別に好きじゃないのにじっくり話す間もなく向かっていって、それで傷ついて、っていうだけだったんですけど、その先生は主治医だったから、じっくり話を聞いてくれて、そうしているうちに落ち着いて、心が癒されていったんです。恋愛妄想だと言いながら、そうやって信頼関係を築いていくうちに納得したという感じで、相手が結婚しているというのも最終的に認めて、そこから卒業しました。自分のなかで、それはいい経験だったというのがあります。

 

伊藤 すごい先生ですね。5年間、変化を待たれたんですね。

 入院はどのくらいの頻度でしていますか。

 

小福 さいきんはほとんどなかったんですけど、3―5年ぶりにこの前の8月に入院しました。コロナのワクチンを打ったら眠れなくなっちゃったんです。

 

伊藤 ちょっとしたことでもバランスがくずれるんですね。

 

小福 ワクチンくらいでっていうべきなのか、ワクチンが大変なことなのか分からないんですけど、刺激があるとだめだったりしますね。

 

伊藤 外出がしにくい状況は影響しましたか。

 

小福 コロナで生活環境が変わったことは私にとってはよかったです。もともとそんなに外出できないので、みなさんがzoomで会議に参加していたりするのを自宅から見られるのはよかったです。おうち時間を充実させるものがセールになっていたりしてるし、精神障害者の人全員だとは思わないんですけど、わたしにとっては環境はよくなったなと思います。

 

伊藤 対面とオンラインはコミュニケーションのしやすさは違いますか。

 

小福 意外とオンラインは緊張するんですよね。会ったときは、しばらくしてほぐれてくれば大丈夫なんですけど、リモートだと相手の顔色が見えにくくて、必要以上に緊張している気がします。

 

伊藤 坂口恭平さんが手仕事をしていると安定するとおっしゃっていましたが、そういう習慣はありますか?

 

小福 あります。手芸が好きです。編み物ってすごく落ち着くんです。かぎ針がもともと好きで、さいきん棒針もはじめたんですけど、単調な作業で、「ここまで編めた」という達成感があるのがいいです。

 

伊藤 まさに坂口さんと一緒ですね。散歩とかはどうですか?

 

小福 散歩は私は調子くずしちゃうんです。編み物を毎日するっていうほうがずっと落ち着きます。刺繍や洋裁もやるんですが、編み物が一番落ち着きます。刺繍はお花とハムスターのがま口つくったりしてます(笑)。料理も落ち着きますね。しないよりしたほうが、上がっても下がっても気分がよくなります。掃除はだめで、イライラします。

 

伊藤 料理ってけっこう複雑じゃないですか?

 

小福 たぶんそれもやったほうがいいんだと思います。私が調子悪いときって、一部分だけが回っていてショートしちゃってる感じなので、全体にまわしたほうが頭の調子がよくなります。立って料理したほうがいいです。でも運動は、ドーパミンがでるのか女性ホルモンが出るのが分からないですけど、調子をくずしちゃうんです。

2021/11/19 東工大大岡山キャンパスにて