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Iさん

Iさんは補聴器を使いはじめて4年の中途失聴者。意外にも、聞こえにくくなるとうるさいそう。特定の周波数の音が聞こえにくいために、聞きたい音を選択的に聴くことができず、すべてがごちゃっと聞こえてしまうからです。聴覚の特徴は、視覚とは違って「不意に」があるところ。フランスで暮らし始めて10年になるのに、聞こえないことによって外国人扱いされてしまうというのも興味深い指摘です。


Iさんプロフィール

30代女性。フランス在住。中途失聴者。

 

◎聞こえない音は気づけない

I 合気道を教えることもあるんです。

 

伊藤 かっこいいですね。目が見えない人でも合気道をやっている人がいます。


I 見える見えないはあまり関係ないかもしれませんね。レベルがあがっていくと、相手が動くまえに、動こうとする気を読んで、先に動くようになります。むしろ見えないほうがいいのかもしれません。わたしの先生はよく、自分と相手を含めた運動の中心に自分がなければいけない、と言います。でも見えていると、痛いのではないかと遠慮みたいなものが出てしまう。

 

伊藤 面白いですね。合気道は長いんですか?

 

I フランスに行ってから始めたので、9年ですね。フランスには2009年に行きました。25歳でした。ずっとクラシックバレエをやっていたんですけれど、ちょっと限界だったんです。週5日仕事をして、2日体を動かすのでは、ギャップに体が追いつかなくなった。でもバレエはずっとやるならうまくなりたかったので、そうでないならとすっぱりやめました。それで何か体を動かすことをしようと思って、それで合気道を始めたんです。

 

伊藤 フランスで始めたんですね。バレエの経験は合気道に役立ちますか?


I 見た動きをすぐに体でできるところですかね。具体的な体の使い方は全然違いますけどね。

 

伊藤 なるほど。聞こえなくなったのが十年前くらいと伺いましたが、ちょうどフランスに移って合気道をはじめた頃だったんですね。

 

I 一番最初はもうちょっと前、2007年に耳鼻科で聴力検査をしたんです。なぜしたかは覚えていないんですが。聴力検査ってむちゃくちゃ簡単だし絶対間違ってないわと思ったら、8000ヘルツのところがちょっと悪かったんですね。8000ヘルツが80代レベルだと言われました。だけど、他の高い音は全部聴こえていたので、様子をみましょうということになりました。それでそんなことはすっかり忘れていたんです。

 

伊藤 ということは、最初は聞こえないという自覚はなかったんですね。


I なかったです。聞こえないということは、その音が存在しているということを知らないということなので、気がつかないんです。それで言ったら、私は、耳鳴りはずっと誰にでもするものだと思っていたんです。私はずっとしてるんです。していないという記憶がないんです。みんな聞こえているけれど、気になるか気にならないかぐらいのことだと思ってた。

 

伊藤 どんな耳鳴りですか?

 

I キーンという高い音ですね。聞いたことがあるんですが、耳鳴りというのは、聞こえていない音を脳が勝手に補足しているらしいんです。私は高い音が聞こえないから、高い耳鳴りが聞こえるのかなと思っています。

 

伊藤 頭痛やめまいはなかったですか?


I 日常生活に支障をきたすほどではなかったです。

それでそのままフランスに行って、一年に一回くらいは一時帰国しているんですが、あるとき両親と長野に旅行に行ったんです。それで親が「鳥が鳴いてる」と言うんですが、聞こえなかった。聞こえているけど認知していないだけかと思って、両親に、いつ鳴き始めたか、いつ鳴きやんだか言ってもらったんです。そうしたら私にはその変化がまったく分からなかった。それで2007年のときのことを思い出して、耳鼻科に言ったら、高音域の聴力がけっこう落ちていたんですね。それが2014年です。1000ヘルツまでは聞こえているんだけど、2000から8000までが落ちています。2007年のときは8000だけがちょっと落ちているだけでした。

 

伊藤 なるほど。8000だけのときは自覚症状はなかったけど、2000以降が聞こえにくくなってきて、あれっ?と思うことが増えてきたんですね。

 

I そうです。耳鼻科で教えてもらったんですけど、薄い紙を机の上においてこすると音がするそうなんですが、聞こえません。あと、2014年には体温計のピピピという音が聞こえなくなっていました。冷蔵庫の扉が開けっぱなしのときの音も、聞こえていなかったですね。

 

伊藤 それってどういう感じですか?前は耳鳴りが聞こえていたけれど、今度自分の中に起こった変化というのは、不気味な感じでしたか?


I 最初は、聞こえなくなったということに気づいていなかったんですが、聞こえていない音があるとわかって、最初はちょっと不安でした。別に紙の音とかは聞こえなくてもいいんですが、お湯の湧く音が聞こえないということに気づいたときに、「音が消えていっている」と思って、率直にいうと怖かったし、不安でした。

 

伊藤 聞こえないということそのものよりも、生活が変わったり、危険を感じられなかったり、といったことに対する不安ですか。

 

I そうです。2015年に結婚したんですけど、将来子供が生まれて、耳が聞こえなくなっていたらどうしようとか、そんなことを考えました。

 

伊藤 感覚レベルでの変化はどうですか。それまでの世界があって、そこから音がすっと消えているという感じなのか、その他の部分も変わったりしましたか。たとえば、紙を触ったときに音がなくなると視覚と触覚だけになると思うのですが、それによって紙の質感の感じ方が変わったというようなことはありましたか。


I それは全然と言っていいほどなかったですね。聴覚だけがすっといなくなった感じで、いなくなったことに気づかないんです。

 

伊藤 リアリティもあまり変わらなかったですか。

 

I そうですね。ただ音だけで存在しているものは存在がなくなってしまったという感じです。

 

◎全部の音がごちゃっと入ってくる

伊藤 補聴器はすぐに使い始めたんですか。


I 2014年のときはちょっと考えただけでした。耳鼻科の先生が、2007年の結果と比べて、進行しているので、将来的には補聴器を考えたほうがいいんじゃないか。もしやるなら、早めに慣れておいたほうがいいと言われました。つけてすぐに聞こえるというものでもないし、つける生活というのに慣れたほうがいいんじゃないか、と。あ、そうかと思ったんですけど1年後にまた検査を続けるという感じでした。補聴器をつけたのは2016年、フランスの先生に診てもらったときです。そのときはもう向こうで働いていて、保険がすごくきいたんです。このタイミングで買っておいたら自費が少なくて済むと思いました(笑)。2016年のときは、8000ヘルツが−70dBまで下がっていました。ちょっとずつ、聞こえにくいかもしれないと思い始めて、補聴器をつけることにしたんです。

 

伊藤 そのときの補聴器を今も使っていらっしゃるんですか?

 

I そうです。Bernafonというスイスのメーカーのものです。私の場合は高音が聞こえないので、低い音はなるべく自然に入るようにして、高音だけに補聴器が働くようになっています。

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伊藤 耳と補聴器を併用している感じなんですね。


I そうです。もし全体が聞こえにくいのなら、耳の中に入れるタイプの補聴器になるだろうけど…と言われました。

 

伊藤 さきほど、つけてもすぐに聞こえるわけではないとおっしゃっていましたけど、かなり訓練が必要でしたか?

 

I Audioprothésisteという人がいて、補聴器の調整をしてくれるんですが、最初から一番高くはしないで、少しずつ聞こえる度合いを上げていくんです。2週間に一回、次は一ヶ月に一回、それから半年に一回、という感じで定期的に会って、どういうときに聞こえにくいか、どういう音が聞こえにくいか、あるいは聞こえすぎるか、というのを話して、調整していくんです。

 

伊藤 補聴器の方をアジャストしていくんですね。


I そうです。これ、すごい機械なんです。リモンコンを経由してパソコンとつないで、それで調整するんです。半年なら半年間、私がどのような音環境のところにいたかが分かるんですね。うるさいところによくいる人なのか、逆に静かなところによくいる人なのか、分かるらしいです。

 

伊藤 それをくりかえすうちにだんだん合ってきたんですね。そのあいだはずっと装着していたんですか。

 

I そうですね。その点に関しては私はすごく真面目だとAudioprothésisteの先生に言われました(笑)。お年寄りは取ってしまう人が多いそうだし、もっと聞こえなくなってくると、つけたときの違和感も大きくなるそうです。

 

伊藤 取ってしまう人の気持ちもわかる感じでしたか?


I 分かります。ちょっと嫌な感じです。何かがついているのは嫌だし、ときどきハウリングの音がしたり、メガネとぶつかったりしますしね。

 

伊藤 聞こえじたいは以前と同じような感じなんですか?

 

I それは違います。全然違います。2016年以降も状態が進行していて、そのつどアジャストしてるんですけど、やっぱり聞こえにくいところはあります。補聴器の性能で言うと、この補聴器は目の前にいる人の音をとるようにできているんです。すると、横や後ろから話しかけられたときに、反応できないんですよね。後から思ったら聞こえていた音なんですけど、それが自分に向けられていたとは感じられなくて。それでよく申し訳ないことをしたりしてしまいます。

 

伊藤 なるほど。向きがあるんですね。道を並んで歩いているときなどは、聞こえにくいですか。


I ちょっと聞こえにくくなりますね。でも私が話しかけられると思っていないときが、一番反応が悪いですね。すごくショックだったのが、フランスでお菓子を選んでいたときに、お店の人が外に出たかったらしいんですよね。後ろから何か言われたっぽいんですけど、全然聞こえていなくて、そしたら耳もとで「ソーリー!」って怒鳴られたんですよ。観光客だと思われたんですね。

そういうのは悲しいですね。耳が悪いのは私のせいじゃないし、その人の気持ちも分からんではない。ああ、なんか悲しいなと思いますね。

もっと聞き取りにくいのは、うるさい場所ですね。居酒屋とか、バーとか。人にもよるんですけど、近い距離で話していても、何を言ってるか全然分からないんです。

 

伊藤 なるほど。なぜそうなるんですかね。カクテルーパーティ効果のような注意に関するものは、脳の問題だと思っていたので意外です。

 

I やっぱりふつうの人は低い音から高い音まで全部聞こえている中で取捨選択してるんですよね。でも私は高いほうが聞こえないから、うるさくなると全部ごちゃっとなって、どの音を聞いていいか分からなくて、全部の音が耳に入ってくる感じですね。

 

伊藤 懇親会や飲み会を避けちゃいますね。


I 行きたくないわけじゃないけど、ちょっと避けちゃいますね。

あとは高速道路を走っている車の中ですね。前と後ろに座っていると、話しかけられてもよく分からない。高速道路ってかなり音がうるさいですね。すごくうるさいところで、小さい音でラジオを聞いている感じですね。

 

伊藤 電車はどうですか?

 

I 電車の中は、うるさかったら聞こえにくいかもしれませんね。でも最近、新幹線に人と乗ったことがないから分からないです。飛行機はもう全然だめですね。飛行機の中で映画を見るときに、イヤホンを補聴器に近づけて聴くんですけど、話が半分くらいしか分からないです。

 

伊藤 いろんな音が混ざってくるんですね。すべてがごちゃっとなる感覚は、以前には味わったことのないものですか?


I そうですね。ただうるさいというのとは違って、聞き取れないという感じですね。何を言っているのか分からない。勝手に耳に入ってくるというより、拾いたいのに拾えないという感じです。

 

伊藤 よく耳を澄まそうとしている感じですかね。

 

I そうですね。一生懸命聞いてるつもりなんですけどね。

 

伊藤 それは一日かなり疲れますね。


I 疲れますね。よく寝ますね(笑)

 

伊藤 補聴器を外して休むんですね。外した瞬間はどんな感じですか。

 

I そうですね。休もうと思っているときは、開放された感じですね。聞かなきゃいけないときに外すと、「あ、音がなくなった」と思いますね。

 

◎すみませんって言いづらい

I 一番困るなと思うのは、たとえばバーとかで目の前にいる人の話が全然分からないときに、一回くらいは「え?」って聞き返すんですけど、この人に毎回叫んでもらうのは悪いなと思うと、「もう一回言ってください」と言えなくなるんですよ。それで何してるかというと、表情と、ちょっと聞こえる声色で、言っている内容を想像してるんです。

 

伊藤 それはちょっと辛い状況ですね。


I ぼそっと言ったことでみんなが笑っているときに、「なに?」とか聞けないですよね。

 

伊藤 音って流れて行っちゃうものだというのが大きいですね。見えない場合には、みんなと同じタイミングで見てなくても、あとから説明してもらって確認することができるけど、音ってなかなかそうはいかないですね。

 

I 最近困っているのは、講演会を聞いているときに、「すみません、もう一回言ってください」とは絶対言えないじゃないですか。だから同じことを言い方を変えて言ってくれたり、繰り返して言ってもらえたりすると、助かります。さっきのは〇〇だったんだなと分かるので。それがないと、「なんだったんだろう?」という思いのまま時間がすぎていく。

 

伊藤 なるほど。それは何かいい対処の方法はないんですかね。文字に起こしてみる、とかですかね。

 

I この前の講演会で発表者の方が、大事なところになると早口になる人で(笑)。これ、自分がもし司会の場所にいたら大変なことになるな、と思いました。もしかしたら聴力が落ちてきていて、もう一度調整したらよくなるのかもしれないですけどね。

 

伊藤 これからどうなっていくか、というは分かっているんですか。

 

I 今までずっと原因が分からなかったんですが、遺伝性の難聴かもしれないということで、その遺伝子検査を来月受けることになっています。それは原因が分かるだけで、治療法がないというのは変わらないんですけどね。もし遺伝性なら、間違いなく進行していきます。補聴器でも間に合わなくなったら、人工内耳を考えるようになっていくかもしれない、と言われています。

 

伊藤 もう一段階変化があるかもしれない、ということですね。

 

I 人工内耳はやっぱりちょっと怖いですね。脳に穴を開けるわけですから、入院も短くても2週間必要です。つけたあとは、めまいがしたり吐き気がしたりする、という話も聞いています。あとは補聴器よりも、周りから見たときに分かりやすくなりますね。でも一番怖いのは、体の中に何かを入れることの怖さですね。ただ人工内耳をつけたらすごくクリアに聞こえるという話も聞いたことがあって、それはちょっと魅力的ではあるんですが。

 

伊藤 変な質問になっちゃいますが、先天的にろうの人だと、補聴器すら外して生きていくという人もいたりしますが、もともと聞こえていると、そういう選択肢って絶対にありえないものなのでしょうか。

 

I そうですね。たとえ怖い手術をしてでも、戻りたいとは思いますね。

 

伊藤 やっぱり聞こえる方が、自分にとってのスタンダードな体だからということですかね。

 

I そうですね。あと私はピアノを弾くんです。だから全然聞こえなくなったら、とても困る。ピアノを弾くのはとても大切なことなので。

 

伊藤 ピアノは毎日弾くんですか。

 

I ピアノが家にあるときは基本的に毎日弾いていますね。母が小学校の音楽の先生だったので、小さい頃からずっと弾いていて、フランスに行ってからもピアノを買ってずっと弾いています。好きですね。忙しい日のなかに、音楽を聞いたら、もっと時間が流れる感じがしますよね。弾くと、そこにもっと自分がコミットしてる感じがして、生き生きしますし、楽しいですね。いま生きているという感じがしますね。

 

伊藤 面白いですね。補聴器をつけてピアノを弾くとどうですか。

 

I 聞こえてくる音が、若干ぺらっとしている感じがします。外すと、高音のボリュームが適切かどうか分からない。低い音なら、10の力で弾いたら10の音が返ってくるけど、高い音だと10の力で弾いても5くらいしか返ってこない。すると、ものすごく強く弾いてしまうんです。ちゃんと聞こえる人が聞いたらおかしいんじゃないかなと思います。

 

伊藤 なるほど。常に自分にはこう聞こえているけれど、実際はどうなんだろうというギャップの感覚がありそうですね。

 

I そうですね。CDで音楽を聞いても、バイオリンとピアノのうちバイオリンだけ高い音が小さく聞こえるんです。それはきっと私の耳のせいだろうなと思っています。

 

伊藤 そういうときはどうするんですか?脳内でバイオリンの音を大きくすることはできないと思うけど…(笑)。「これは、本当はこうで」と考えるのは、けっこう頭を使うんじゃないかと思うですよね。

 

I たぶん、知っている曲なら頭の中で補って聞きますね。でも知らない曲だと、急に低い音でバイオリンが聞こえてきて、「あ、バイオリンいたんだ」みたいになることはあります(笑)まあ回復はできないんだなと、ちょっと諦めている感じですかね。

 

伊藤 いま気持ち的にはどうですか。これまでも、補聴器をつけるタイミングとかで、聞こえないことに対する気持ちの変化があったのではないかと思うのですが。今は引いて見れている感じですか。

 

I そうですね。そうするしかないですね。これからきっと悪くなるんだろうなとか思うとやってられないので、仕方ないなと思いますね。治らないというのは変えられないので、やっぱり健聴者の人よりはちょっとマイナスなんだなというのはどこかで思っていて、だからまわりの人に対して申し訳ない感じがすごくしますね。

 

伊藤 迷惑をかけている感じがあるということですか?

 

I そうですね。やっぱり話しかけてもらっても気づかないとか、本当は聞こえていないのに聞こえているふりして繕っているとか、失礼なことをしているけれども、どうしようもないから、すみませんという感じですね。すみませんって言えばいいじゃんって言われるんですけど、そうもいかないんですよね。

 

伊藤 うーん。パッと見て分かる障害と、見て分からない障害ってアプローチが全然違いますよね。視覚障害や車椅子のような一目瞭然の特徴だと、最初に違いが見えてそれを埋めていく感じになる。でも吃音や聴覚障害のように見て分からないものだと、何かの瞬間に「あれ?」というのが生じて、そこからズレが広がっていきがちですよね。最初から分かっていたほうがアプローチがしやすい部分ももしかしたらあるのかもしれません。

 

I そうですね。それこそ後ろから声をかけられて分からなかったときとかは、心の中ではその人を追いかけていって、「すみません、聞こえなかったんです」って言いたいんですけど(笑)、でもそれができない。ああ、誤解されたまま終わっていくなあ、という感じがしますね。

 

伊藤 でも今後何かの拍子に、追いかけていっちゃうかもしれないですね(笑)。思ったより先に声をかけているというようなことが。

 

I 逆に耳鼻科のナースさんとかは助かりますね。自分が聞こえないということをわかっているから。

 

伊藤 自分から周りの人に言うということはあまり考えないですか。

 

I その人との関係によりますね。つきあいが長くなる人には言います。

 

伊藤 なるほど。街中で不意に、っていうのが一番困る感じですね。

 

I お店の人とかに毎回言ってまわるわけにいきませんからね(笑)

 

伊藤 街によって反応が違うということはありますか。

 

I フランスだと、「あ、この人フランス語分からへんのやな」というのがすぐ出てきますね。

 

伊藤 吃音と一緒ですね。吃音も海外にいると「この人しゃべれないんだな」と思われます。

 

I それはちょっと嫌なんですよね。そもそもアジア人が近づいてきて何か話そうとすると、フランスの人って平気でしかめ面するんですよね(笑)。自分はフランスでフランス語で働いてもいるのに、見た目がアジア人というだけで、そういう扱いされるんだなあ、と。

 

伊藤 日本も見た目が日本人っぽくない人が日本語をしゃべると、つい「すごい!」とか言っちゃったりしますよね。

 

I 日本で聞こえないことがあると、「あ、この人は日本人じゃないかも」みたいな反応になることもありますね。

 

伊藤 違いが見えたときの理解の仕方が、文化によって違いますね。

 

I そうですね。でもやっぱりフランス語のほうが聞き取りにくいですね。高音が聞こえないということは、子音が聞き取りにくいということなので。日本語はほぼすべての音に母音がくっついているからましなんですけど、フランス語は子音が続いたりすると分からないですね。最初は言語能力のせいかなと思いましたが、聞き取りのせいでした。

でも、日本語でも「千葉県」と「滋賀県」の違いが分からなかったりします。「資料室」と「治療室」、「しめじ」と「姫路」も分からないですね。ローマ字で打つと母音があるけど、母音を発音しない人もいます。でも分からない言葉があった場合に、文脈から理解しやすいのは母語である日本語ですね。

 

伊藤 自分のなかで間違いやすい単語のセットが溜まってくると、対処しやすくなりそうですか。

 

I でもそういうのは大量にあるので、難しいかもしれません。母音も含めた間違いもあって、無限にパターンがある気がします。

 

2019/10/27 京都市西京区にて