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大原さん

吃音があり、社会人として働く大原さんにインタビューしました。まだまだ社会的認知度が低く、誤解もされやすい吃音ですが、大原さんは吃音カードを作るなどアクティブに工夫しています。ふつうは物を説明するために言葉があるけれど、吃音の場合には、言葉を説明するためのキャプションを物でつける。モノボケ的な笑いの取り方含め、ふたつのコミュニケーションチャンネルをうまく使っていることが印象的でした。


◎吃音カード

伊藤 メールをいただいてありがとうございます。今の吃音の状態は難発が中心で、連発が混じる感じですか?

 

大原 はい、難発が中心です。

 

伊藤 子供ころから状態は変化していますか?

 

大原 自分は父親もそうなんで、遺伝の関係で。トレーニングで少しよくなって、また悪くなっての繰り返しですね。

 

伊藤 いまはいいほうですか?

 

大原 いまはいいほうですね。学生のときが一番ひどかったです。

 

伊藤 どんな感じでしたか?

 

大原 あいさつもできないというか、言っても向こうが何を言いたいのか分からない状態ですね。

 

伊藤 トレーニングに通っていたのはいつですか?

 

大原 いまも行っているんですが、高校生から始めました。

 

伊藤 どんなことをするんですか?

 

大原 病院と電話でのトレーニングを受けています。

 

伊藤 電話でやるんですね。電話は話しにくくないですか。

 

大原 電話は、名前は言えますが、時間がかかって、あいさつはトレーニングのおかげでよくなりました。

 

伊藤 トレーニングは、言えるフレーズを増やす感じの内容なんですね。

 

大原 はい。

 

伊藤 ということは、慣れた言葉は言える、という感じなんですね。

 

大原 そうですね。

 

伊藤 逆にまったく新しい言葉になると、自分の中でもハードルがあがりますか?

 

大原 話したいときに言いにくい言葉があったら、それでもう、雰囲気がまったく変わっちゃって、まったく言えなくなりますね。

 

伊藤 雰囲気が変わるって面白い表現ですね。どういう変わり方ですか。

 

大原 なんか、急に言いにくいのが入ってきますね。

 

伊藤 自分の状態が変わるんですね。

 

大原 はい。

 

伊藤 その感覚は何かにたとえられますか?

 

大原 えーと…急にステージに行って、発表するような感じで、緊張の度がすごくなりますね。

 

伊藤 その力は強力だと思うんですが、自分なりに何か工夫をすることはありますか?

 

大原 いまは、そうなったら自分では、えーとですね、あの、カードみたいなのを作っていて、それを見せます。そうすると相手も、「あ、そうか」ってなります。

 

伊藤 なるほど。そのカード、見せてもらうことはできますか?

 

大原 はい。

 

伊藤 ありがとうございます。このカードは、ふだんは結構つかっていますか?

 

大原 飲食店とかで使っていますね。

 

伊藤 相手の反応はどうですか。「ゆっくり話しますから」と書いてあるので、待ってくれる感じですか。

 

大原 ふつうの人が話すような注文じゃなくて、不自然な話し方であれば注文できるので、それでやっています。

 

伊藤 筆談はしますか?

 

大原 筆談は、あまりしたくないです。

 

伊藤 どうしてですか?

 

大原 筆談してしまうと、障害者というイメージになってしまうから…。

 

伊藤 なるほど。だから時間がかかっても話したいんですね。飲食店のほかに、このカードを使うことはありますか?

 

大原 持っていても、使わないこともあります。

 

伊藤 持っていると安心、というお守り的な要素もありそうですね。

   お父さんも吃音があるということでしたが、子供の頃、お父さんのことをどう見ていましたか。

 

大原 おかしいなとは思っていましたが、吃音だとは分かりませんでした。

 

伊藤 ご自分自身の吃音に気づいたのはいつごろですか。

 

大原 小学生3年生くりのときに、国語の授業の音読で分かりました。

 

伊藤 言葉がでにくいことに気づいた、ということですか?

 

大原 そうですね。

 

伊藤 それまではしゃべりにくいことに気づいていなかったんですか?

 

大原 それより前は、文章で言う機会があまりなくて、短い言葉だったら言えるんで、そういうふうに話していました。

 

伊藤 長くしゃべらないで、短くしゃべるように、自然になっていた、ということですね。

 国語の音読のときはどんな感じでしたか。

 

大原 そのときは、おかしいというよりも、周りの反応を気にしていましたね。

 

伊藤 周りに何か言われたということですか?

 

大原 言われてはないですけど、「引く」という感じでしたね。

 

伊藤 そのときに、お父さんのこととはすぐに結びつきましたか?

 

大原 そうですね。

 

伊藤 吃音は、子供のころは思い通りにならなくて苦しかったり、ストレスがたまったりすると思うんですが、悩むことはありましたか?

 

大原 友達は多くはなかったですね。自分を受け入れてくれる人はしゃべってくれるけど、それ以外の人はしゃべってくれない感じでしたね。

 

伊藤 なるほど。言えないという辛さが爆発したり、家族に当たってしまうことはなかったですか?

 

大原 そういうときは、違う趣味で忘れるようにしていました。好きな音楽を聴いていました。

 

伊藤 カラオケは行きますか?

 

大原 自分では歌わないです。

 

伊藤 言葉が出ないときには言ってほしいですか?

 

大原 そういうときは、他の言葉で言い換えます。固有名詞のときは、向こうが察してくれたらいいですね。

 

伊藤 言い換えをいやがる人もいますが、そのような感覚はありますか。

 

大原 言い換えても普通の人のような話し方ではないんで…でも自分ではあまり気にしていないですね。

 

◎名札交換ジョーク

伊藤 お話されるときに、「なんか」とか「なんだろう」のような、つなぎみたいな言葉は、すっと出ますね。意識していないからですかね。

 

大原 言おうとしたらどもるけど、とっさに言えば、言えますね。

 

伊藤 だからあいさつのような定型の言葉は、習慣がつくとしゃべれるようになるんでしょうね。

 家族と話すときと、私のような初対面の人と話すときでは、話しやすさが違いますか。

 

大原 それは違いますね。向こうが自分のことを知っている、ということを自分が分かっていれば、症状は抑えられます。逆に相手が知らないと、ひどくなります。

 

伊藤 相手が自分のことをどう思っているかどうかが、しゃべりやすさに大きな影響を与えるんですね。

 

大原 不安度が違います。まったく知らない人だと、吃音をかわして、どもらないように言わなければいけないという意識があって、それでどもちゃいますね。

 

伊藤 なるほど。会社で飲み会のような場にいくことはありますか。

 

大原 あまり行きたくないですね。

 

伊藤 どうしてですか。

 

大原 少人数だとしゃべれるんですが、大勢だと、まわりの話に自分が入れていなくて、それで落ち込んで、の繰り返しですね。

 

伊藤 三人くらいだったら大丈夫ですか?

 

大原 大丈夫ですね。

 

伊藤 六人くらいだと?

 

大原 多いですね。

 

伊藤 相手が待ってくれる状況と対局ですからね。

 いま一番親しいのは会社の人ですか?

 

大原 そうですね。同期の人ですね。食事も行って。

 

伊藤 そういうときは、冗談を言い合ったりしますか。

 

大原 面白い話はしますけど、言い方がおかしいから、そんなに笑ってくれないです。棒読みみたいな感じなんで。

 

伊藤 いま「棒読み」っておっしゃったけど、あえてそのようにしているんですか。

 

大原 そうですね。話そうとしてつっかえると、その言葉を出すのに一生懸命になっちゃって、その語を言うのに全力になっちゃうから、棒読みになっちゃいますね。

 

伊藤 話としてのもりあがりとは別に、言いにくい言葉を言うために棒読みになっちゃうから、うまく笑ってほしいところで笑ってもらえない、ということですね。

 

大原 そうですね。

 

伊藤 会話じゃない方法で笑わせることはありますか?

 

大原 会社の人としたのは、名札を交換して、その人がふつうにしゃべるから、「大原、おまえ吃音どうしたんだ」みたいになったことはありますね。

 

伊藤 (笑)会社の中では「吃音どうしたんだ」みたいに話題になる雰囲気なんですね。それは大原さんのアイディアですか?

 

大原 はい。

 

伊藤 (笑)いいですね。

 (11月16日伊藤研究室にて)