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徳永泰之さん

音楽を楽しむことが特徴の吃音サポートグループ「ジークフリーツ」で知り合った徳永泰之さんにインタビューをしました。以前インタビューした山田さんと同様、徳永さんも「音読」が苦でなかったタイプ。ただしその理由は違っていて、「みんなが教科書を持っているから安心」だそう。徳永さんにとっては、「伝わるかどうか」が吃音出現の重要なファクターになっているようです。「飛行機」を「航空機」に言い換えるという話も面白い!もしかすると多くの吃音者がやっている「言い換え」は「言いやすい言葉に言い換えること」ではないのかもしれません。


 徳永泰之さんプロフィール

1994年生まれ。大学では理学部物理学専攻。狛江市の吃音サポートグループ「ジークフリーツ」に月1回参加。2017年4月から社会人に。

 

◎「言い換え」は言いにくいからなのか?

伊藤 言語に詳しいですね。

 

徳永 大学の言語学の先生とお話する機会が多くありました。私自身は理学部で物理を専門していたんですが、吃音がずっとあって、保健室に行ったりするなかで、他の先生とも仲良くなりました。試験の点数をあげるために勉強するのは好きじゃなくて学問としていろいろ学ぶほうがしっくりくるんです。

 

伊藤 ジークフリーツはすごくゆったりした雰囲気ですよね。かっちり音楽療法としてやるというよりは、ゆるく歌い、ゆるく話す。その感じが新鮮でした。

 

徳永 そうですね。会員制でもなく、自由ですね。他の言友会では会員制のものもありますが、ジークフリーツは出入り自由です。言語聴覚士(ST)の先生と接点を持てるというのも特徴ですね。大学に入ってから一ヶ月に一回通い始めて、吃音そのものは変わらないですが、吃音に対する考え方はちょっと変わったかなと思います。自分以外の吃音の方と会ったことが会ったことがなかったので、いろいろな人がいるんだなというのが分かりました。ジークフリーツ以外で音楽に関わるということはなかったのですが。

 

伊藤 このまえジークフリーツでお会いしたとき、実はとてもアクティブで社交的な方なんだなという印象を持ったのですが…。

 

徳永 自分ではあまりそうは思っていないです。試験の評価は気にしないんですが、人からどう見られているのかというのは結構気にしてしまいます。誰でも人によって態度は変えると思いますが、大学の先生、友達、家族など、人よって見られ方が違っていて、全員に同じように思われているということはないと思います。初めての人と話すときは、自分が吃音であるということが伝わっていないかどうか、気にしますね。

 

伊藤 吃音の状態は小さい頃から変化していますか。

 

徳永 親は、子供のころはもっとひどかったと言っています。でも自分としてはあまり変化については意識していません。そのときどきで、話しやすい状況とそうでない状況があるという感じです。

 

伊藤 話しやすい状況というのは、どういう状況ですか。

 

徳永 今のような状況は話しやすいです。まわりにあまり声が聞こえなくて、静かなほうがいいです。居酒屋のような雰囲気が一番きらいですね。大きい声を出さなくちゃいけないときが、一番吃音が出やすいです。まわりのガヤガヤしている音をかき消して、自分の声で相手に話さなきゃいけない。それが一番話しにくいです。授業でも、人前で発表する機会はできるだけ避けていました(笑)。シラバス見て一番最後に「発表」と書いてあると取るのをやめたり。でも発表でもみんなが静かに聞いてくれている状況で話すのは、居酒屋よりは話しやすいです。

 

伊藤 うるさいと話しにくいというのは、どういうことでしょうかね…。小さい声と大きい声というのは何が違うんでしょうか。

 

徳永 うるさいと大きい声ではっきり話さなきゃいけないですよね。そうでないと、聞き返されたときに、もう一度ちゃんと言わなきゃいけないというプレッシャーがあります。最初は言えても、聞き返されたら言いにくくなったというのがあります。

 

伊藤 徳永さんはあまり連発はないですね。難発が中心ですね。吃音の出方について、他の人と比べたときに、徳永さんの特徴はありますか。あるいは徳永さんならではの吃音対処テクニックはありますか。

 

徳永 難発が多いですね。人によって言いやすい言葉が違うなということは感じます。テクニックに関しては、言い換えですね。無意識状態でいつもやっています。固有名詞は言い換えられないのでストレスになりますね。

 

伊藤 言い換えを無意識に、ナチュラルにしているというのは面白いですね。

 

徳永 ふつうの会話では使わないような言葉をたまに使ったりしますね。たとえば、「飛行機」は「航空機」と言いますね。「空母」を正式名称の「航空母艦」と言ったり。(特に乗り物が好きというわけではありません・・・)

 

伊藤 「空母」と「航空母艦」の言いにくさはあまり変わらないような気もしますが…

 

徳永 でも言いにくいんですよね。自分でも、何が言いにくくて何がいいやすいのか分からないです(笑)

 

伊藤 たしかに、本当に言いにくいのかどうかよく分からないですよね。でもやっぱり「航空機」ではなく「飛行機を経由した航空機」なわけで、言い換えている感覚はあるわけですよね。

 

徳永 言い換えている感はありますね。

 

伊藤 言い換えって不思議ですね。本当に言えないからじゃない可能性がありますよね。ふとした瞬間に「飛行機」と言えてしまって、そこから「飛行機」が定着するというようなこともありえますか。

 

徳永 一回言えちゃうと次から言えるということはありますね。自分でも本当によくわかりません。発表で、これは絶対言えないから他の言葉を準備していたのに、実際やって見たら勢いで言えちゃった、ということが何回かありますね。発表の練習のときは言えなかったのに、本番だと言えちゃった。とか・・・

 

伊藤 別の言葉を準備していたのに言えちゃったというのは面白いですね。体とのかけひきですね。

 

◎資料や音があると楽

伊藤 ほかに吃音回避のテクニックはありますか。

 

徳永 言いにくいものの実物を持っておく、というのはありますね。持っていれば「これです」と言えますから。それに関係するか分かりませんが、小学校のときに音読をしますよね。音読は、実際に自分の発音が悪かったとしても、みんな同じ教科書を持ってるので、逆にはっきり話せたりしますね。

 

伊藤 へえ、面白いですね!吃音の人は、音読は言い換えができないので苦手という人が多いですが、そんな発想もあったんですね。教科書があることがプレッシャーになるのではなく、安心材料になるんですね。

 

徳永 ジークフリーツでも音読が苦痛だったという人が多いんですが、自分の場合は、音読が苦痛だったということはなかったですね。読むときに、自分だけその文章が書かれた紙を持っているのと、みんな持っているのとでは、全然違いますね。

 

伊藤 「伝わる」っていうことが大事なんですね。居酒屋のお話も伝わりやすさに関係していますね。

 

徳永 教科書があると、もしそれが難しい漢字だったりしたら、先生が読み方を教えてくれたりしますしね。発表でも資料があったほうがいいし、パワポがあれば、「あれ」「これ」と言えますね。

 

伊藤 ものや教科書やパワポをとおして、実際に場を共有できているという安心感もありそうですね。そうすると、電話で話すというは、声に負荷がかかるという意味で、究極の資料なし状態ですね。

 

徳永 電話はほとんどしないですね。Skypeはやったことないですが、たぶん電話よりは楽だろうと思います。

 

伊藤 なるほど。面白いですね。ただ一方で、声以外のもので伝えようとして、ふだんから身振り手振りでオーバーアクションしているという感じでもないですね。

 

徳永 最近はあまりしなくなりましたね。以前、小学校のときはけっこう身振りをしていたと思います。ものの形を手で表現したりしていました。

 

伊藤 ビジュアルで共有するのと似ていますね。「Tell」だけでなく手で示す「Show」もする感じですね。勢いや弾みをつけるための身振りもありましたか。

 

徳永 そうですね。幼稚園のころは机とか壁をバンと叩いて勢いをつけて話すこともあったみたいです。最初の音が出にくいときに、叩いて最初の音を出すんです。あのころの力なので大したことはないですが、わりと思い切り叩いていた記憶があります。

 

伊藤 なぜ叩くと最初の音が出やすくなるんですか?

 

徳永 音があると声が出やすくなるんです。ジークフリーツでも太鼓を叩きながら話すというのがあったのですが、そういうのはほとんどの人が吃音が出ないですね。ジークではピアノにあわせて歌いますが、今のところそれで(歌で)どもりが出る人には会ったことがないです。

 

伊藤 なるほど。叩いて発散するのではなくて、外部の音を聞きながら、それにあわせて、乗って話すというのが重要なんですね。なぜ歌だとどもらないのか、仮説でいいので考えを聞かせていただけますか。

 

徳永 歌うときはリズムがあるとどもらないんだと思います。まわりの音を聞いて、そのリズムに乗って話し始めるっていうのがやりやすいんだと思います。歌だとすれがずっと続きます。

 

伊藤 リズムってふつうに話すときには使えないんですかね。密かに歌っているとか(笑)。

 

徳永 (笑)それ一度考えたことがあるんですが、やっぱり使いにくいですよね。

 

伊藤 それがリズムの難点ですよね…。

 「歌があるとどもりが出ない」という境界線がどこにあるのかが気になります。どこまで歌要素を減らしても大丈夫なのか。たとえば早口言葉はどうですか?早口言葉ってラップみたいなもので、「なまむぎ、なまごめ、なまたまご」って韻を踏んでるものがほとんどです。つまり、本来なら言いやすいフレーズなんですよね。早口言葉って、不思議なことに言いやすい言葉を早く言うんですよね。

 

徳永 あまりやったことがないです。苦手な感じがありますね。自分の中ではできないと思っているので、やったことがないですね。

 

伊藤 音読の暗記はどうですか?

 

徳永 まわりの人もそんなにしっかり覚えていなくて、途中で「あー」とか「えー」が入っていたので、それに紛れ込む感じでしたね。自分がしっかり覚えていてもそうなるというのは悔しかったですが、吃音がまわりにバレるかどうかをあまり気にしなかったですね。

 

伊藤 山手線ゲームはどうですか。

 

徳永 山手線ゲームだと、みんなが手を叩いたりしているので、そのほうがいいやすいですね。最初にジークフリーツに行ったときもリズムゲームをしていました。

 

伊藤 なるほど。ということは、リズムがなくて、しかもアドリブだったとしても大丈夫だということですね。

 

◎吃音スイッチが入る場合、入らない場合

伊藤 急に「徳永くん」と話しかけられて話すときと、自分から手をあげて、自分発進でアクションするときと、どっちが言いやすいですか。

 

徳永 まわりの状況によります。高校の教室とかで、名前を呼ばれて話す分にはいいんですけど、道を歩いていて急に「すいません」と話しかけられて道を聞かれたら、吃音が出やすいかなと思います。話しかけてきた人が知っている人かそうでないかは大きいと思います。カウンセラーと話したときに、スイッチの話が出ました。反射反応みたいなところがあって、うしろで大きい音がすると体が硬直状態になって振り返りますよね。そのとき、構えるスイッチが入ると思います。話すときも、話すという状況になると、スイッチが入るんだと思います。話しかけられて、吃音のスイッチが入っちゃうと、吃音が出やすくなるんです。

 

伊藤 面白いですね。それは「吃音スイッチ」ですか、それとも「話すスイッチ」ですか?

 

徳永 それはたぶんイコールです。話そうとすると吃音スイッチになると思います。

 

伊藤 なるほど。ということは、スイッチが入らずに話すこともあるということですか。不意に声を出す状況だと吃音が出ないということですよね。

 

徳永 そうですね。たとえば後ろから脅かされて驚いて「わっ!」と言うときなどは吃音が出ないですね。スイッチが追いつかないです。でも、道を歩いていて「すいません」と声をかけられると、こちらが話さなくちゃいけない状況になるので、スイッチが入りますね。

 

伊藤 スイッチが入ってから実際に話すまでの時間は吃音の出やすさに関係しませんか。たとえばあるイベントで「開会のことば」を言わなくてはならないとなった場合は、一ヶ月前くらいからスイッチが入ることになりますよね(笑)

 

徳永 あまりに長い場合には、言い換えを考えたり、話す準備をいろいろするので、反射の場合との比較はしにくいかなと思います。たとえば人が集まっているときに、「教室の鍵、誰か持ってませんか」と言われて、反射的に「あ、自分持ってます」と言うときにはスイッチがほとんど入っていない状況です。でも自分が指されて「徳永くん、鍵持ってませんか」と言われると吃音が出ることがあります。

 

伊藤 突然かどうかよりも、自分に向かっているかどうかが重要なんでしょうかね。

 

徳永 そうですね。指名されないというのは、答えなくてもいいのでその安心感があるんだと思います。「誰か持ってませんか」という聞かれ方だと、そのとき言えなくても、あとから「すみません、自分持ってました」と言えばいいので。そうなると逆に話しやすいです。

 

伊藤 沈黙が気まずくて何か話さなくてはいけない状況はどうですか。つまり、誰かから指名されるときのようなキューが出ていない状況で、自分がスタートする場合です。

 

徳永 学校のカウンセリングに行っているときに、人と雑談するのは難しいことで、絶対話さなくちゃいけないとは思わないほうがいいと言われました。二人でいても話したくない人はいるので、沈黙でも気にしないようになりました。

 

伊藤 話さなくていいと思ってしまうことは、スイッチを入れないようにするひとつのテクニックですね。

 

 (2017年3月29日@東工大伊藤研究室)