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かんばらけんたさん

リオパラリンピック閉会式でも活躍されていた、二分脊椎症のかんばらけんたさんにお話をうかがいました。かんばらさんは、下半身の感覚がなく、外出は車椅子での移動が基本。だけどこの「下半身の感覚がない」は一筋縄ではいかず、怪我したところを見ていると「痛くないはずなのに痛いような気がしてくる」とのこと。おそらく上半身の痛みの経験が、下半身におきた出来事を理解するために使われているのだと思いますが、上と下で異なる質を持つハイブリッドな体だからこその、面白いお話をたくさんうかがいました。


かんばらけんたさんインタビュー

2016年11月18日 @新宿小田急ホテルセンチュリーサザンタワー

 

かんばらけんたさんプロフィール

1986年生まれ。車椅子ダンサー。「二分脊椎症」という障害を持って生まれ、システムエンジニアとして働く。2015年、SLOW LABEL『スロームーブメント』に車椅子ダンサーとして出演したことをきっかけに表現活動を始め、現在は「Integrated Dance Company 響 Kyo」にも所属。

2016年にはAyaBambiとの共演や武道館でのソロ出演など、活動の幅を広げている。

 

◎二分脊椎症とは

かんばら 最初に障害のことを説明したほうがいいですかね。

 

伊藤 はい、お願いします。

 

かんばら 二分脊椎症という病気で、生まれつき脊椎が二つに分かれています。イメージとしては交通事故で背骨を骨折したのと同じ状態です。背中にこぶみたいな脂肪の塊があって、それのせいで脊椎が二分されていたんですが、そのこぶは0歳のときに手術をして取っています。なので、腰から下の神経が弱かったり全然動かなかったり、強い側弯があったり、腰から下の骨の形が特殊だったり、右脚の筋が張ってまっすぐ伸びなかったりします。

 

伊藤 左右の差もあるんですね。

 

かんばら あります。右脚はまったく伸びないけど、左脚はちょっと動かせます。だから脊椎が全くもって分かれているわけじゃなくて、若干、左側はつながってるんだと思うんですよね。あとは感覚で言うと、腰ぐらいから感覚が弱くなるという感じです。ここから先はまったくないという感じではなくて、ちょっとグラデーションになってる感じですね。

 

伊藤 はっきり境目があるわけじゃないんですね。そのグラデーションは、触っていって確かめたんですか。

 

かんばら その「触っていく」というのが、すごく微妙なんです。自分で触っちゃうと、手のひらの感触があるから、感覚があるような気になっちゃう。なので他の人に触ってもらわないと、あまり意味がないんです。それで触ってもらうと、足の付け根あたりはまだ感覚が残っていて、そこから先はないっていう感じですかね。

 

伊藤 ということは、左脚は動かせるけど、感覚は…

 

かんばら 感覚はないです(笑)

 

伊藤 えーっ!そうなんですね。動いていることはどうやって分かるんですか?

 

かんばら 頭の中で動けという指示を出せば動きますけど、何かに当たっても全然分からないです。

 

伊藤 自分の体に対する感覚って、筋肉や関節の伸び具合を感じる内側の感覚(固有感覚)と、触覚や視覚のように外側から感じる感覚がありますけど、その関係がどうなってるんだろう…。

 

かんばら よく分からない(笑)。右脚も、まったく動かないわりには、右脚の足の裏をじーっと見てたらぴくぴく動いたりとかするし(笑)

 

伊藤 (笑)「見てると」って何ですかね。「念じる」とは違うんですかね。

 

かんばら 見て、力を入れてる感じにするんですかね。つまり左脚を動かしているイメージで右脚を動かすと、いつもよりピクピク動いたりしますね。

 

伊藤 「右脚」っていう感覚はあるんですかね。「右脚を動かせ」という感覚と、「左脚を動かせ」という感覚は違うんですか。

 

かんばら それはありますね。でも、左脚のほうが、「動かす」という感覚がよく分かりますね。右脚のほうが、あまりピンと来てないまま動かしている感じですね。

 

伊藤 「右脚がピンと来ない」って言うのは私には想像を超えた領域ですね…。でもピンとこなくても「動かせ」という感覚は持てるんだから、本当に微妙ですね。神経の繋がり方も経験によって変化するかもしれませんね。

 生活する上で、内臓の機能はどのような感じですか。

 

かんばら 内臓機能は特別障害というのはないですね。体が小さいので胃も小さくて、あまり食べられなかったり、感覚が弱くなるので、普通の人よりちょっと排泄の感覚が弱いはずです。トイレに行きたいと思ったら早めに行くくらいで、普通ですね。通院もしていなくて、安定した状態です。結局だから内臓機能というより、神経の感覚が強い/弱いの話になっちゃう感じですかね。

 

伊藤 小学校、中学校はどうだったんですか。

 

かんばら 普通の学校に通っていました。エレベーターがなかったので、小学校では1階から4階までの各階に車椅子を一台ずつ置いてもらって、階段の横にカーペットを敷いてもらって、手で這って各階を移動していました。

 

伊藤 同じ障害を持っている方と交流はありましたか。

 

かんばら まず、リハビリみたいな感じで小さい頃に整形外科に通っていて、その中で二分脊椎症の人と会うということはありましたね。二分脊椎症って人数が多いので、二分脊椎症の会みたいなのがあって、お泊まり会のような機会に一応交流はありました。でもまあ、そんなに深く関わったというわけではないですね。

 

伊藤 このまえお会いしたときに、かんばらさんが手で器用に階段を上り下りしていたのを見ていて、どうやっているんだろう、ととても驚いたのですが、二分脊椎症の方の中では、かんばらさんのようなパワフルなスタイルがどの程度一般的なのか、気になりました。

 

かんばら 二分脊椎症にもけっこういろいろあります。装具をつけて、杖もつかずに歩ける人もいます。ぼくみたいに歩けない人は、腕のパワーで何とかしている人が多いような気はしますかね…。ぼくと同じように逆立ちができる人も、結構多い気がします。腰から上は健常者なので、そこで補っている人が多いんじゃないですかね。

 

伊藤 プロレスラーで鶴園誠さんという方がいて、彼も二分脊椎症だと思いますが、試合を見に行ったことがあります。やはり上半身がムキムキの凶暴なヒール役で、すごくかっこいいです。

 

◎痛くないのに痛いような気がする

伊藤 感覚のお話をもう少し伺いたいのですが、以前おしゃべりの中で、「脚に意識を置いておく」みたいにおっしゃってましたよね。

 

かんばら 脚に意識を置いておくのは、純粋に怪我のためです。怪我しないのであれば意識する必要はないんですけど、感覚がないから、怪我をしないように意識を置いておくんですよね。

 

伊藤 怪我をしてしまったこともありますか。

 

かんばら 数知れずあります(笑)。たとえば幼稚園くらいのときに、手で這って友達と鬼ごっこしてたら、いつのまにか脚が擦り傷で血が出ていたりとか。

 

伊藤 そのときどう思うんですか。痛くはないわけですよね。

 

かんばら 「うわーやっちゃった」という感じですね。「あ、これ気をつけないとダメなんだ」みたいな。まわりに「気をつけなさい」と言われてというより、自分でそう思うようになりましたね。

 あと、脚から血が出ているのを見ていると、不思議なんですけど、なんとなく痛いような気がしてくるんですよね(笑)。痛くはないんですけど、血が出ているということで、痛いっていう感じになってくるんですよね。

 

伊藤 痛い気がしてくるって面白いですね(笑)

 

かんばら 明確に痛いわけじゃないんだけど、足元がモワモワするというか、痛いような気がする状態、なんか違和感がある状態です。怪我に気づいていないと、モワモワしている感じもないので、目で見て、脳が何かしら理由をつけようとしているんじゃないですかね。

 

伊藤 冷たい、熱いは感じますか。

 

かんばら お風呂に脚をつけると、ちょっとだけ温かくなる気がします。でもそれは頭が勝手に作り出しているものなのか、神経によるものなのか、よく分からないです。でも、脚をやけどしたときは何ともなくて、水ぶくれができているのを見たら痛いような気がしたりするから、たぶん感覚はないんだろうと思います。何か作ろうとしているからモヤモヤするんでしょうね。

 

伊藤 それって脚を切断した人が感じる「幻肢痛」とも違うんですかね。

 

かんばら ぼくは生まれつき感覚がないので、幻肢痛とも違うんだと思います。

 

伊藤 幻肢痛は、ぶつかったり熱かったりという物理的な理由とは関係なく痛いものですからね。

 

かんばら あと、脚をぶつけると、とっさに「いたっ!」と言っちゃいますね(笑)でも痛くないんですけどね。

 

伊藤 (笑)ぶつけたのを目で見て、「いたい」と言っちゃうっていうことですよね?

 

かんばら いや、目で見たからではないですね。ぶつけるって感覚で分かるんですよね。脚がゴンっていったりとか、お腹に振動がくるんですよね。

 

伊藤 なるほど!ぶつけるっていうのはぶつかった箇所だけが感じてるわけじゃないんですね。衝撃が他のところにも伝播するから、下半身の衝突を上半身で感じたりもするんですね。その感じたものは「いたっ」じゃないとすると正確にはどんな感じなんですか?

 

かんばら 正確に言うと、何かな…「ぶつけちゃった」ぐらいの感じかな。「いたっ!いたくないけど。」って昔はよく言ってましたけどね(笑)。

「ぶつける」という感覚を、脚以外の場所で補っているんでしょうね。ぶつけてそっちに体重がひっかかって重くなったり、お腹が振動が来たりとか、そういうことだと思うんですけど。見てもないのに、とっさに言えるんです。

 

伊藤 そう考えると「ぶつかる」は、たとえば尖ったものに触ったときの痛みとはそうとう違いますね。そういうふうに捉えたことはありませんでした。面白いですね。

 

かんばら ぶつかった箇所は確かに痛いので、優先的に信号を受け取っているんでしょうね。

 

伊藤 かんばらさんの場合は、そのぶつかった箇所の痛みがダイレクトに来ないぶん、重さや振動の感覚として「ぶつかる」を感じるんでしょうね。

 

かんばら でもごくまれに、「いたっ!」って言っても当たってないときがありますね(笑)よく分からないですね(笑)

 

伊藤 (笑)前に話してくださったコタツのエピソードも面白かったです。

 

かんばら まずコタツに入るときは、脚を入れても温かくないので手を入れるんですけど、他人の足を触ったと思って「あ、ごめん」って言ったら自分の足だったってやつですね(笑)。これ、結構あるんですよね。意外と自分の思ってるとおりに足が配置されてないんでしょうね。

 

伊藤 こたつだと脚が見えていないから、頭の中の脚のイメージと実際の脚の配置のズレが際立つんですね。あと、他人の脚もそこにあるというイメージも必要ですよね。

 

かんばら コタツは脚が見えてないから起こるんだと思います。見えていたら、目の情報で感覚が補えちゃって、完結しちゃいますね。

 

伊藤 さっきの怪我の話もそうですけれど、かんばらさんの場合は、脚に関する情報の入り方が、ほぼ100パーセント外側からの経路を伝ってくるんですよね。感覚があれば、内側からキャッチできる情報を外経由で得ている。

 

かんばら そうですね。脚が冷えているかどうかを手で確認したりしますしね。脚の感覚がない分、その感覚を補うために視覚を使ったり、触覚を使ったりしていますね。ないものを違う感覚で補おうとしているんでしょうね。視覚触覚に加えて、たとえば痛みのような感覚を、さらに脳が作ろうとしてるんでしょうね。

 

伊藤 外側からの情報も、内側からの情報として感じようとしているんでしょうね。そこがかんばらさんの体の一番の特徴ですね。

 

◎腕に脚の機能もついてる

かんばら 痛みで言うと、筋肉がつっているのか、10秒か20秒くらい動けなくなることがあります。子供のころは、左膝が痛くて動けないんだと思っていたんですが、大人になるにつれて、それは脚の付け根が痛いんじゃないかと思うようになりました。痛みで「うっ」となってしばらく動けないのに、どこが痛いのかよく分からないという状態になるんです。

 

伊藤 治るときはすっと治るんですか。

 

かんばら 急に来て急に治ります。もう慣れているので、何ともないんですけど、3−4日に一度くらいあります。熱が出ると頻度が高くなります。触ると筋肉がピクピクしているんですが、それが原因なのか分かりません。

 あと、怪我の話で言うと、右足の小指が青あざになって腫れてきたので、病院に行って見たらヒビが入っていたことがありました。どこでヒビが入ったか分からないんですけどね。いろいろ怪我をして、「これはダメだな」という経験がたまっているので、だから最近は気をつけて怪我が減っているんだと思います。

 

伊藤 かんばらさんにとって脚ってどういう存在なんですかね。「自分だ」という感じはあるんですよね?

 

かんばら うーん…「自分」という感じはあるんですが、手より遠い存在ですね。気を使わないといけないから、じゃまなときもあるし…。あと右脚は曲がったままなので、あまり意味がないんです。左脚は、たとえば便座に座るためにつかまり立ちをするようなときに、ちょっとついたりします。車椅子に乗るときにも、若干ついてるような気もします。でも右脚は、「意味がない」んですよね。

 

伊藤 重さは感じますか。

 

かんばら 重みはそんなに気にはならないです。右脚はずっと曲がっているというじゃまさがあります。もし交通事故で右脚を失ってもすぐ立ち直れる気がするんですが、左脚を失うと「あー大変になるな」という感じがあるんですよね。でも手を失うよりかはマシです。手が一番自分に近くて、次が左脚で、右脚はだいぶ遠い存在という感じですね。右脚さんには悪いですけれども(笑)。

 

伊藤 上半身はがっちりしている印象がありますが、鍛えているわけではないんですよね。

 

かんばら ぼくは幼稚園の時点で逆立ちができたので、鍛えたわけではなくて、ほとんど生まれつきこの体という感じです。

 家の中では車椅子から降りて生活しています。実家だと自分の部屋が二階なので、毎日手で這って上り下りしているし、歯を磨くときも、洗面台の前に高さのある椅子を置いているので、そちらに移るときも体を持ち上げるような形になります。日々筋トレに近い感じですね。実家も神戸の坂の上にあるので、駅から徒歩20分ひたすら登らないといけないので、それが英才教育になったんですかね(笑)。

 

伊藤 肩幅も広いですよね。肩パットが入ってるのかなと思うくらいの広さがありますね。あと手も大きいですよね。

 

かんばら 手はよく大きいと言われるんですが、じつは細いから大きく見えるだけで、合わせるとそんなに大きくもないんです。胃が小さくて食べる量が少ないから、細いんじゃないかなと自分では思っていますが、よく分からないです。

 

伊藤 なるほど。細いせいか肩甲骨も目立ちますよね。可動域がすごく大きくて、初めてお会いしたときに、率直な印象として「白鳥みたいだな」と思いました。翼があるような感じがして。失礼ですみません(笑)

 

かんばら 全然大丈夫です(笑)。肩甲骨を翼のようにボコッと出すことができたり、ふつうの人よりよく動くというのはあると思います。

 

伊藤 階段を登るときはどういう順番で手をついたり重心を移動したりしているんですか。この前、あまりに速くて観察できなかったんです。

 

かんばら 登るときは、まず右手をついて、ぎゅっと上がりつつ左手をついて、という感じですね。降りるときは、頭の方から重力に任せて行くパターンと、一段ずつお尻をついていくパターンがあります。重力に任せていく方が速いです。登るにしろ降りるにしろ、難しさっていうのはないですよ。

 

伊藤 頭から行くのは逆立ちに近い感じになるんですか。

 

かんばら そんなことないです。階段と体があたっている部分には体重をのせているので、すべるような感じです。

 

伊藤 街中でも車椅子から降りて移動することはありますか。

 

かんばら しょっちゅうはないですよ。たとえば飲み会でお店が階段だったりすると、車椅子を人に任せて自分で降りたりします。あと、二、三段だったら車椅子を自分でひっぱりつつ階段を登れるので、そういうことをすることもあります。あとはエスカレーターは車椅子をウィリーのような状態にしてひとりで乗れます。前のタイヤをエスカレーターの一段上に乗せて全体を傾けるんです。

 

伊藤 そういうテクニックは、やってみて自分で開発されたんですか?

 

かんばら やってみて身につけましたが、エスカレーターに乗る人はけっこうたくさんいますよ。特にアスリートの車椅子を使っている人は乗れるような気がします。

 

伊藤 さきほど腕が脚よりも自分に近いというふうにおっしゃっていましたが、たぶん腕に対する捉え方というか、「腕観」みたいなものが、私とは違うんじゃないかと思います。私は自分の手で歩くということはできないので、体の重さを手で支えるというイメージがありません。腕は胴の横にくっついてブラブラしているものという印象です。

 

かんばら ぼくの場合は腕に脚の機能もついてるという感じです。手で這っていくのも「歩く」ですし、もうちょっと言うとこの車椅子も、ちょっと脚に近いです。腕は胴体と同じくらいの存在ですかね。

 

伊藤 腕が脚の機能も持っているというのは面白いですね。腕の感じ方についてもうちょっと知りたいのですが、たとえば私の場合は、手は細かい仕事をする器官というイメージが強いです。やろうと思ったことをやっている。だから頭の延長という感じがします。それに対して、脚はふだんは意識していないけど仕事をしてくれているベース、という感じです。

 

かんばら ぼくも手で移動しているときは意識はしていないですよ。たぶん歩いてるのと同じだと思う。階段を上り下りするときすら、意識していないですね。車椅子をこいで移動しているときも、意識はしてないです。でも細かい作業をしているときは、確かに脳により近い感じはします。どういう存在かと言われても、ふつうの人よりも役割が多くて、「より近い」みたいな概念的な感じのことしか言えないですね。

 

伊藤 面白いですね。腕のイメージがそのときどきで変わっていそうですね。移動と作業の他に、手が他者と関わる場面として、たとえばけんかをすることはありますか?「手が出る」みたいなことはありますか?

かんばら 今はもうないですが、小さい頃はしてましたね。相手の髪の毛をつかんじゃったりしてましたね。脚を使えないと移動ができないので、「つかみにかかる」みたいな感じでしたね。でもそんないっぱいはけんかしてないですよ(笑)小学校に入るまでです。

 でもやっぱり障害があるからナメられちゃだめだというのは頭の中にあって、ナメられかけたら喧嘩をしてた、というのはちょっとあります。おかげで特にいじめられることもなく過ごしました。親が「やられたらやり返せ」って言ってたんで(笑)。それに従ったのかもしれません。

 

◎ダンス

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伊藤 リオパラリンピックの閉会式でも披露されたダンスのお話も伺いたいのですが、実は始めたばかりなんですよね。

 

かんばら そうです。2015年の10月11月ころに始めたので、ちょうど一年くらいですね。「スローレーベル」という団体があって、それに参加したくてやり始めました。スローレーベルでは、YAMAHAが開発している白い車椅子を使っていて、タイヤの横に太鼓がついていたり、後ろの羽のところがスピーカーになっていて、車椅子の動きに合わせて音が動くようになっています。これは音がまっすぐ飛ぶようなスピーカーなので、視覚障害がある人が見ても、車椅子が来るとぐっと現れたような感じがします。あとは、雨の音が出る板状のスピーカーを客席の上で動かしたりもします。見えなくても楽しめるような工夫をしているんです。この車椅子に乗りたかったんです。

 

伊藤 じゃあ、きっかけはダンスというわけでもなかったんですね。

 

かんばら ダンスというより、コミュニティダンスというか、パフォーマンスに近いですね。10月11月ころから練習して、2016年2月に講演があって、そのあいだに技をいろいろ開発しました。逆立ちは小さい頃からできたんですが、車椅子を横に倒して回したりして、それが楽しくて、終わるのがもったいなくて、ダンスしようかなと思いました。せっかくやるんだったら、東京パラリンピックの開会式閉会式に出られたらいいなと思っていたら、リオに行けちゃったという感じでした。スローレーベルのディレクターをしている栗栖良依さんが、リオの閉会式のキャスティングに関わっていて、本番二ヶ月くらい前に出演が決まりました。国内練習が5日くらい、現地で5−6日くらい練習しました。

 

伊藤 本当に短期に決まって練習して本番だったんですね。月並みな質問ですが、出演してどうでしたか?(笑)行くのもまず大変ですよね。

 

かんばら 遠かったですね(笑)。ヒューストン経由だったんですが、そこまでまず13時間、トランジットに6時間、そこからさらに12時間のフライトでした。トランジットはわざと長くとってもらって、ラウンジでゆっくりリラックスできるようにしてもらいました。合計30時間弱くらいかかりました。向こうについたら、治安の問題でホテルから出てはいけないというルールがあって、缶詰状態でした。食べ物もホテルばっかりで食べていたし、練習場所とホテルを往復しているだけでした。

 ぼくはダンス経験半年だったので、本当にそこに行っていいのかなという感じでしたね。まわりは本当に有名な方ばっかりだったので、大丈夫か?という感じでしたね(笑)

 

伊藤 ダンス歴半年でリオはすごいですよね。どこが評価されたんだと思いますか?

 

かんばら こんなふうにアクロバティックに車椅子を使っている人がいないので、ライバルがいなかったんでしょうね。社交ダンスなら車椅子でやっている人はいて、今回も2名出演されていました。あとは女性のコンテンポラリーダンサーが一人いて、この人はぼくが所属しているもう一つの団体「Integrated Dance Company 響」のメンバーなんです。響は、車椅子ダンサー3名と健常者のコンテンポラリーダンサー6-7名いるカンパニーで、振付家をよんで作品をつくるタイプのカンパニーです。スローレーベルのコミュニティダンスよりのものもやりつつ、同時並行でやっています。

 

伊藤 半年でパラリンピックまで行ってしまうと、これからどうすればいいんだろうという感じでじゃないですか。

 

かんばら 東京パラに出る云々というより、プラスアルファのこと、たとえば障害者のパフォーマーを増やすことのお手伝いをするとか、もうちょっと贅沢なことを言うとオリンピックの閉会式に車椅子で出てパラリンピクにつなげることができたらなとは思いますけどね。オリンピックはまだ妄想のような段階ですが、パフォーマーは足りていないので、増やすお手伝いはしたいですね。

 

伊藤 もともとダンスに興味はあったんですか。

 

かんばら たまにダンスを見に行く程度でした。コンテンポラリーダンスを見に行きましたね。それこそ、今回リオでご一緒したAyaBambiさんは好きですね。手の動きが特徴的で、椎名林檎さんのバックダンサーをされています。もともと椎名林檎さんが好きだったので、すごいなと思ってYou tubeで見ていました。なのでまさかリオで、待ち時間暇だからという理由で、一緒に動画を作ったりするとは思っていませんでした。

 

伊藤 もともと椎名林檎ファンだったんですか!すごいですね。

 

かんばら 超好きでした(笑)。いまだに現実感がないですね。

 

伊藤 かんばらさんにとってかっこいいと思うダンスはどんなダンスですか。

 

かんばら かっこいいと思うのは、リオでご一緒した義足のダンサーの大前光市さんですね。ぼくとかよりも何段階も上のレベルにいる気がしますね。テクニックもしかり、何気無い動きでもきれい、かっこいいという感じがしますね。意識もプロですしね。

 

伊藤 ダンス全体のなかで、ご自身のダンスをどんなふうに位置付けていますか。

 

かんばら コンテンポラリーダンスは哲学的な要素があるけれど、自分はそういう方向というより、むしろ「その他」みたいなイメージでコンテンポラリーダンスに分類されてるんだと思います。自分としてはコンテンポラリーダンスと、ちょっとサーカスみたいなこともやっているという感じですね。スローレーベルの演出をしている方がサーカスアーティストの方なので、そういう意味ではサーカス寄りのことをよくしていますね。こんど豊洲に、パラリンピック関連の専用練習場(新豊洲Brilliaランニングスタジアム)ができます。そこではエアリアルシルクという上から垂らしたブランコのような布に登ったり降りたり回ったりするパフォーマンスも練習できるんですが、再来週、ぼくもそれをやりにく予定です。

 

伊藤 それは新しいですね!ダンスの相手は車椅子だけじゃないですもんね。開拓してますね。お仕事との両立が大変だと思いますが、今後の活動、楽しみにしています。ありがとうございました。