編集部のご好意により、SHUKYU Magazine vol.2 Body Issueにて、私がインタビュアーをつとめたブラインドサッカー日本代表3選手へのインタビューの全文を、テキストデータの形で公開させていただけることになりました。インタビューに応じてくれたのは、黒田智成、田中章仁、佐藤大介の3名。「言葉によるフェイント」など、ブラサカはかなり面白いことになっているようです。SHUKYU Magazineは本体のデザインがめちゃくちゃかっこ良くて充実しているので、ぜひ手にとってみてください。
The possibility of Blind Soccer
ブラインドサッカーの可能性
Interview by Asa Ito
Photography by Katsumi Omori
人間が得る情報の8,9割は視覚からです。その視覚が使えなくなった時、人はどのように周りを把握しているのでしょうか?ブラインドサッカーは、視覚が使えない状態でプレーするスポーツです。IBSA ブラインドサッカー世界選手権2014、IBSA ブラインドサッカーアジア選手権2015が東京・国立代々木競技場フットサルコートで開催され、国内での注目度も高まってきています。実際、彼らは目が見えない状態で、どうやって空間を把握し、コミュニケーションを取りながらプレーしているのでしょうか?日本代表のメンバーで、所属するたまハッサーズのチームメイトでもある、フィールドプレイヤーの黒田智成選手、田中章仁選手、ゴールキーパーの佐藤大介選手に所属チームの試合後、お話を伺いました。
ブラインドサッカーとの出会い
—初めてブラインドサッカーに触れたのはいつ頃でしょうか?
黒田智成(以下TK):2002年の4月に関東地域で初めて開催された講習会でした。
—日本にブラインドサッカーが入ってきた当初からプレーされているのですね。やってみてどんな感じでしたか?
TK:小さい時に見えなくなったので、人とぶつかるかもしれないという怖さはなかったです。ただ、周りの人の動きやボールの運び方など、サッカーの動きを知るのに時間がかかりました。講習会の一ヶ月後に韓国で行われた親善試合が最初の試合で、それから色々な伝手で選手を集めてチーム(アヴァンツァーレつくばの前身チーム)を作りました。その後、就職で八王子に引っ越して2005年にたまハッサーズを立ち上げました。
—最初にシュートが決まった時の事は覚えていますか?
TK:2002年8月に韓国とベトナムを招いて親善試合が開催された時に、高山の試合でシュートを決めた気がします。決まった時は嬉しかったですね。でも、その時よりも神戸の試合で、終了間際に点を決めてそのまま勝った試合の方が嬉しかったです。ゴールを決めた後に前宙みたいのをやって、ゴールよりもそれが話題になりました(笑)。最近はやらなくなっちゃった。危険なプレーでファールを取られそうな気がして(笑)。
—小さい頃に見えなくなっているからあまり衝突することが怖くないと仰っていましたが、それはどうしてなのでしょうか?
TK:小学校一年生の時に手術でわずかな視力が残っていた片目の眼球を摘出して、手術する前と後ではっきり違うはずなのですが、あまり違いがありませんでした。それまではぼんやりと見えていて、よく見れば段々はっきり見えていく感じだったのですが、手術が終わってもぼんやり見えている感じがして、じっと集中して見ようとするともっと見えなくなる、というような違いです。
—眼球を摘出しても何か見える感じはありますか?
TK:はい。たぶん音を聞きながら画像をイメージしているのだと思います。アイマスクをしていてもディフェンスがいる感じがするし、そんなに怖くはないです。
—もっと音に頼って位置を理解していると思っていたので、視覚的に何か見えている感じがあるのには驚きました。
TK:僕の中での視覚的なイメージは音と記憶と思い込みです(笑)。だから、自分がイメージしているものと現実とは違うこともあります。例えば、シュートして入ったと思ったのに、ガイドから右に1メートルずれたよと言われると、自分がイメージしているゴールと実際のゴールの位置がずれているということなので、現実とイメージをすり合わせる作業をします。守備の時もあと一歩右だったとか、キーパーからフィードバックをもらいながら合わせていきます。
—続いてアキさんにお話を伺いたいのですが、アキさんはどういう形でブラインドサッカーを始められましたか?
田中章仁(以下AT):2006年の2月にハッサーズのメンバーに誘われて始めました。
—今は少し見えているのですか?
AT:左目は光覚があるので、明るいか暗いかは分かる感じです。アイマスクを付けない状態でサッカーをやったとしても、ボールは見えないです。
—なるほど。サッカーを始めて10年ぐらいになるということですが、その前にスポーツはされていましたか?
AT:10〜24歳までは弱視で見えていたので、体育でサッカー、バスケ、バレーボールをしていました。中学の時は陸上部で短距離の選手でした。身体を動かすこと自体は好きだったのですが、弱視で片目しか見えなかったので、球技は距離感がなくて厳しく、しょうがなく陸上部に入った感じです。
—それからサッカーにいくわけですよね。
AT:出身の靜岡はサッカーが盛んな地域なので、休み時間になるとみんなでサッカーをすることが多かったです。自分自身も小さい頃からJリーグや高校選手権の静岡県予選をテレビで観ていました。
—ということは、サッカーがどういうものかを知った上で始めたということですね?
AT:はい。
—ブラインドサッカーではフィールドプレイヤーはアイマスクをすることになりますが、弱視の方が全く見えない状態になるということは、ジャンプというか全く別の状況になるのではないかと思いますが。
AT:幼稚園の頃の視力がけっこう悪く、10歳ぐらいからちょっと視力が良くなった感じなので、見えなくなった状態が最初で、途中で見えるようになって、また昔の状態に戻った感じです。
—周りを把握する時に視覚的なイメージは浮かんでいますか?例えば、大学の中にいると言われれば大学のイメージが頭の中に出てきたり。
AT:音の反響などもありますが、建物があると思うと四角いビルが出てくる感じはあります。
—細部までは見えないけど、そこに何かが建っていることは感じるということですね。では、比較的音重視で周りを把握されていますか?
AT:音?うーん、なんだろうな。昔のファミコンみたいな3Dの荒い画面の中を歩いているようなイメージ(笑)。音を気にしているというよりは、例えば道を歩いていたら向こうに行くほど狭くなっていて、そこを歩いていくとだんだん近づいてきてっていう頭の中のイメージをなんとなく持って生活している気がします。
—サッカーをしている時は仲間や敵の位置をどういう風にイメージしていますか?
AT:どちらかというと聞いた音を元にという感じですが、人が立っているイメージを頭で作ってプレーすることが多いです。例えば、トモにパスを出す時は頭の中に架空のトモが走っていて、そこにパスを出しています。自分が思っている架空のトモと、実際のトモが一致するとパスが通っている感じです。
—その架空のトモはどういう感じですか?棒人間みたいな感じなのか、もっとこう気配みたいな?
AT:うーん、なんだろう。影みたいな感じでしょうか。色も何もないけど人の形はしている。非常口の走っている人みたいな感じ(笑)。そもそも、外見は知らないというかわからないので、そういうことになるのでしょうね。
—でも、お互いの身体を触ったことはありますよね?一般の視覚障がい者だったらそこまで身体的接触はないけれど、サッカー選手だからこその密接な関わりがある訳ですし。
AT:そこまで厳密には映像化しないです、プレー中は特に。確かに外国の選手とプレーする時はでかい人がいる気はしますが、人がいるかいないかぐらいのレベルでしか認識していないかもしれない。
—トモ選手はどうですか?同じようにアキ選手のことを認識していますか?
TK:こんな(非常口の)ポーズはやっていないです(笑)。元々見えていた経験がそんなにないので、影みたいにいるかいないかぐらいの感じです。自分はアキからボールを受ける事が多いのですが、出し手のアキの場所が特定されると、この辺に蹴ってくるだろうというボールの軌道の予測がつきやすいです。今日の試合では、アキから近い所で受けてヒナ(日向賢)にパスしたら、ヒナがそこにいなかった場面がありました。声がしないとその前にいた場所のイメージがある。そこにいると思って出したらヒナは既に動いていて、声が聞こえて初めて移動しているヒナのイメージが浮かんでくる。イメージはありますが、常に現実と一緒かというとそうではない場合がある。
—なるほど。ボールはどうですか?ボールの音でどういう風に回転しているとか、イメージができるのでしょうか?
TK:軌道の予測はしますが、具体的にボールが回転しているイメージはないです。僕にとってはボールも影みたいなものなので。
AT:僕もボールが転がっているイメージはないです。蹴った時の音と実際に聞こえた音で判断しています。
—佐藤選手は晴眼者でゴールキーパーですが、どういう流れでブラインドサッカーを始められたのですか?
佐藤大介(以下DS):小学校低学年からずっとゴールキーパーをやっていたのですが、続けていく中で自分の体格とレベルからその先はないと早い段階から諦めていました。保育の道に進もうと思い、実習で地方に滞在していた時、ちょうど休みでテレビをつけたらブラインドサッカーをやっていて。番組自体は詳しく覚えていないのですが、ゴールキーパーは目が見える人がやっています、という言葉を聞いた時に、もう一回プレーできるんだと思ったのが最初です。
TK:俺のプレーじゃないの?見たの(笑)。
AT:それオッチー(落合啓士・日本代表)の番組じゃないの?
DS:オッチーの番組か(笑)。実習中もそのことが頭から離れなくて、家に帰ってすぐにインターネットで調べて。自宅から近かったチームがたまハッサーズだったので、すぐにメールを打ったら返事があって、次の週に練習あるので来てみませんか、ハイ分かりましたという流れで行く事になり、最初に駅で会ったのがトモさんでした。
—それはいつ頃ですか?
DS:2007年の10月です。普段はどうしよう、どうしようとなって行動できないのですが、その時はすぐにメールを送りました。それまで目が見えない方 と関わる経験がなかったので、まず迎えに来てくれたのがトモさんだったことにびっくりしました。普通にメールが来るし、電話しても今駅にいますって普通に 話しているし。目の不自由な方がどうやってメールしているか知らなかった。それでトモさんに不思議な感じでついてって。どんどん前に立って道案内してくれ るし。
—変な感覚ですよね(笑)。実際にトモさんがプレーしている所を見て、どんな風に感じましたか?
DS:なんでシュートを打てるんだろう?と、シンプルに思いました。
—ゴールキーパーをやっていて、実際どのようなことを感じましたか?
DS:ブラインドサッカーではキーパーの指示が全てで、そこに一番引き込まれました。責任はすごく重いですが、キーパーへの信頼度という意味では、やりがいが全然違います。
—シュートへの対応は、見えない人独特の難しさはありますか?
DS:それまでは相手の脚の角度や身体の向きで予測できましたが、ブラインドサッカーではまずそれができない。必ずしもきちんと脚に当たってインパクトのあるボールが来るかどうか分からないし。だから、相手の身体の向きではなく、ボールをしっかり見て軌道に反応しています。ですが、いくら経験しても大舞台の試合では気持ちが入ってバランスが崩れることはある。そこがまたすごく難しい。
—なるほど。お二人にとって佐藤選手はどんな存在ですか?
AT:サッカー経験があるのはプレーする上ですごくありがたいです。最初の頃はテンパっていた時もありましたが、最近は冷静に後ろから指示を出してくれる。頼もしいキーパーです。
DS:最近は(笑)?でも、本当その通りで、焦って気負っちゃうんですよね。点入れられても大丈夫!大丈夫!頑張る!って(笑)。
AT:どういう状況だったって聞いているのに、大丈夫!大丈夫!って、大丈夫じゃないから入れられたんでしょう(笑)。
DS:焦るなとはよく言われます。ボールを取ったらすぐに前にいる選手に投げようとしてしまいますが、周りから時間を使えと言われたり。でもコミュニケーションを取ることで、落ち着いて対応できるようになりました。
TK:最初入ってきた時から日本代表の正GKになるまで、ずっと近くでプレーしてきました。そういう熱い所とチームをコントロールする頼もしさを身につけてきていて、信頼しています。ブラインドサッカーに対してもすごく誠実で、目が見える人はフルコートのサッカーやフットサルもできるのに、ブラインドサッカーをすごく大事にし、全力を尽くしている所に好感が持てます。プレー面でもセーブを磨いて点を入れさせないこともそうだし、ゴールスローを磨くことで攻撃の起点にもなる、狭いキーパーエリアの中で何ができるかを追求し努力してきた。本当にすごいと思います。
コミュニケーション方法
—チームの中で戦略や状況を話す時に、独特の説明方法はありますか?
TK:そもそもあまり聞いてないです(笑)。
一同:(笑)。
AT:例えば、自分がディフェンスしている時に右に相手選手がいるよと言われても、右といっても同じライン上にいるのか、自分よりキーパー寄りにいるのか、全然分からないんですよ。それをどう確認するかというと、自分なら右にいるって言ったら指をさして、この気配で分かる時もあれば、指を差してOKって言ってもらって、確認します。
AT:選手によって違うよね。
TK:これが絶対というよりも、個々の選手の特徴に合わせてコミュニケーションを取っていく柔軟さがあるかどうか、というのが良いキーパーかどうかの違いだと思います。
—一対一のコミュニケーションがたくさんある感じですか?
DS:そうすると指示がどうしても多くなってしまうので、まとめて一つの言葉に統一して、みんなその言葉に反応するようにしています。それ以外の所では一人一人細かい指示で。そうすると、僕の指示の数もより削ぎ取られて、他のことをもっと伝えられる。
TK:みんなが共通理解できる言葉があれば、早く伝えることができる。「スライド」という言葉は最近になって取り入れられた言葉で代表から始まった。全体が右にずれるなら、右スライド。左だったら、左スライド。トモも左、アキも左みたいなことを言わなくても左スライドって言ったら全体が左にずれていく。
AT:あとは、例えば右にボールがあってアキ行けって言われた時に、相手がボールを持っているのか、ただボールがフリーで転がっているのか分からないので、そこでフリー、ボールに行けって言ってくれると余裕を持ってプレーできる。フリーだけど(相手が)来てると言われたら、例えば後ろ向きでまずキープしようと判断できるので、具体的な状況が分かる言葉をいかに短く伝えられるかは、ブラインドサッカーにおいて必要かな。
言葉のフェイント
—どう伝えるかというのはすごく大事な要素ですよね。普通のサッカーにはない情報共有の部分で勝敗がついちゃうぐらいですね。
AT:いかに省くかというのもすごく必要で。
TK:伝えることもすごく大事だし、あえて伝えないことも戦略的に重要で。
DS:例えば、トモ行くよってゴールスローを投げるのが味方にとって一番分かりやすいと思いますが、相手にも分かりやすいんですよね。だから、あえて言わずに投げることもあります。
AT:お互い分かりあっていればいいし、それはフィールドの選手同士の場合もあえて言わない、違うところに声をかけるとかもよくやる。トモを呼んでおいて実際はもっと前のスペースにパスを出してフリーで持てるようにするとか。
TK:僕は前のスペースに走りこんで、その流れでドリブルするのが好きです。それを二人とも知っているので、自分も前に上がらずに低い位置で返事をして、ディフェンスをそこに引き付けておいてその裏に出る。
—一般的なサッカーだと目線や身体の動きでフェイントをすることが多いですが、声だとさらに複雑にできそうです。
DS:相手のキーパーは見えているので、何回も同じ方向を狙っていると、アイツはここを狙ってくるという指示をします。そこで一本違うボールを入れるとまた引っかかったりもするし。毎試合このスローでいこうという作戦はないので、試合の流れを考えながらプレーしています。あと、普段の練習でやらないと試合でいざやろうとしても難しい。練習からどんどん難しいことにチャレンジしないといけないです。
TK:そういう工夫をしていくことが、ブラインドサッカーの魅力を広げていくことにも繋がっていくかなと。
—試合中継の時は、キーパーの声がよく聞こえるような放送をしてもらえると、鑑賞している側もその戦略が見えて面白そうですよね。単なるビジュアルだけではなく、音でも楽しめて。
ドリブルのフェイント
—トモさんに質問ですが、ドリブル中のフェイントはどうやって考えているのですか?
TK:自分がブラインドサッカーを始めた頃は情報がなかったので、まずは普通のサッカー、フットサルのテクニック集の中からできるだけ言葉だけで説明しているサイトを探し、それを実際にやりながら使えるフェイントを身につけてきました。今では、こういうフェイントが有効だと伝えることができるようにもなりましたが。
—具体的にはどういうフェイントを使っていますか?
TK:一番よく使うのは、左に行って右足で引きながらインサイドで逆方向に進む「プルプッシュ」。あと、左足で右足にぶつけて縦に行く「ダブルタッチ」とか。僕がよく使うのは、戻りながら中に入って、引いて相手の背後に入っていくようなフェイント。ルーレットはそれ自体がフェイントになる訳ではないですが、一気にスピードを上げてドリブルしながらターンする時に有効なので、よくやります。やられて一番悔しかったのが、2014年の世界選手権でフランスの選手にヒールリフトで頭を抜かれたこと。いつかやり返してやろうと思っています(笑)。
DS:アキさんもフェイントあるよね?壁沿いで相手を背負った状態で、シャカってボールの音を聞かせて。
AT:あー、えっとどれのことを言ってるんだ(笑)?
DS:回り込んだやつ!
AT:壁際で相手につかれた時、フォローの選手に落とすと言ってからボールを足の裏で転がして止める。音がした瞬間に相手の選手はパスしたと思ってそっちに行くけど、実は自分の足元にあるのでクルッと回って前にドリブルするとか。代表のチームメイトで今日の相手だった加藤健人がやるフェイントは、相手につかれた時にボールを動かさないで、自分の身体だけ右にターンするふりをして、相手が右にいった時に空いた左にドリブルするとか。そういう意味ではいろんなフェイントがあります。
—細かいですね。
AT:続けているとお互い読みあいになってくるので、それはそれで面白い。
—裏の裏をかき始めたり(笑)。
AT:実はシンプルな方がいい時もあるし。
フィールドの見え方
—試合中はフィールド全体をどのようにイメージをしている、そもそもイメージしているのかという疑問もありますが、自分の位置がどこなのか想像していますか?
TK:はい、しています。
—他の選手がどこにいるかも?
TK:しています。
—ということは、俯瞰的にフィールドを見ている感じですか?ここが今スペース空いるぞ、とか。
AT:自分は俯瞰というよりかは、自分の目線でイメージしている感じです。
TK:自分もそうですね。自分の立ち位置から声が聞こえている人は影が写っているみたいな。
—後ろはどうですか?やはり前が主ですか?
AT:後ろは別に見えている感じはなくて、声がしているから後ろにいるんだなという感じです。
—前と後ろでは想像の仕方が違うんですね。
AT:違います。
—そうなんだ!
TK:前の方がイメージしやすい。
AT:前はちゃんと映像になっていて、後ろは別に映像じゃない。自分の場合はですね。後ろは普通に後ろ。
—同じ音ですよね、後ろの方が聞こえにくいけど。
TK:それは耳が前を向いているからじゃないかと(笑)。
AT:そういう意味では、自分の場合は目が見えていた時のイメージがあるから、後ろは見えないものだという感覚です。
—そこは分かれるんですね。後ろは音で影にはならないけど、いるなっていう感じは?
AT:あります。けど、人の形は出てこない。
—前は全選手ではないですよね?
AT:声が聞こえた順番に現れる感じです。
—でもずっと走っている中で、それを同時に全部把握するのはかなり難しいですよね?
AT:無理ですね。
TK:相手を声で把握して足音でイメージできる場合もあるし、止まって全く声を出していなくてぶつかった時にいたんだってこともあります。
—試合中に一番注意していることは何ですか?やはり声ですか?それとも常に注意を分散しているような感じでしょうか?
TK:うーん、その状況で一番必要な音は違ってきます。例えば、ルーズボールを拾う時は、まずボールの位置とマッチアップする相手の声をイメージするし、ドリブルに入った時はボールの音はほとんど聞こえていなくて、相手がどこにいるか、ボールがどこかというのを意識するし、その時に必要な音をいかにたくさんの音から無意識に選択できるかが大事なのかなと。僕は返事しない、指示を聞いてないとよく言われるんですけど(笑)、自分が必要としてない時は入ってこないです。
—なるほど、聞いていてスルーしているわけではないんですね。
TK:聞いていてスルーしている時もあるんですけど(笑)、大抵は聞こえてないです。声も今欲しいう時にかかると反応するし。よく聞こえるんだけど、今いらないって言う時に声を出されても入ってこない。色んな音が入ってきている状態だとなかなかプレーするのは難しいんじゃないかな。
AT:トモの場合は攻撃の指示はよく入るんですけど、ディフェンスの指示は入らないからな(笑)。
—それは仕分けているってことですか?
AT:一つの音を聞いていると他の音が聞こえなくなるので、細かく区切って無意識の中で取捨選択をしています。極端な話、相手の監督やガイドの声って聞こえているはずなのにほとんど聞いていなかったり。でも逆にふっ、と観客の声が聞こえてきたり。
TK:よく言うな(笑)。
—トモ選手は全然入らない?
TK:いや、入ります(笑)。
—試合をしていてチームとしての一体感みたいなものはありますか?
TK:ここで欲しいと思った時にパスが出てきたり、声が欲しいと思った時に聞こえたり、そういうのが続くとチームとして同じイメージを持てていると感じます。
DS:それは試合を観ていてもわかります。ちょっと今日バラバラだなとか。それぞれのイメージでプレーしていると、後ろに味方がいるからパス出せばいいのに、自分でもう一回ターンして行ってしまったりして、全体がずれてしまって、結局自分たちが疲れていることも。そういう時はタイムアウトを取って話をすると、みんなの気持ちがリセットされてうまくいったりして、いい流れで点が入りますね。
ブラインドサッカーの可能性
—チームとしての課題はありますか?
TK:個の強さ、決め切る強さが弱いかなと。
—決め切る強さ?シュート力?
TK:シュート力、うーん、ゴールを決める力というか。綺麗にボールが回っているけれども決めきれない、ということがたまハッサーズや代表でもあるので、そこでしっかり決める勝負強さが必要かなと。うちも代表もストライカータイプの人間がまだいないので、そういう人が出てくる必要がありますね。
—トモ選手はそういうタイプではない?
TK:僕は2列目なので点を取る時は大抵カウンターからです。ゴールスローからトラップしてターンして点を決められるような、前線で身体を張れる選手が出てきてもいいかなと。前に一緒にプレーしていたアブディンはそういうタイプでした。
DS:個の力をもっとつけなきゃいけないのはありますが、日本代表もたまハッサーズもお互い何が得意でどうすれば活きるのか、練習で積み重ねてそれぞれ分かっているので、その精度をもっと高めていきたいです。お互いの得意な所を最大限に活かせる状況が理想です。
—アキ選手はどうですか?自分の課題でもいいですし、チームとしての課題でも。
AT:ディフェンスで一対一の時の身体の使い方が課題です。変な形で抜かれてしまうことが多いので、そこは変えていきたい。ブラインドサッカーの一番難しい所は、自分たちのプレーをビデオで見ることができないことで、どんなプレーがいいのか人と比べることもできない。特に身体の使い方なんてその都度変わるので、すごく難しい。
—身体の使い方はどうやって教えているのですか?
AT:ディフェンスの場合、実際に一対一の練習の中でダメなプレーがあったら、今こうしたよね、それだとこっちに抜かれてしまうでしょう、だからこうやるんだよって手取り足取り教えるしか方法はないのですが、結果そのパターンはできるようになるけれど応用できなかったり。一つできるようになると他ができない。どうすればいいのかいつも悩みますね。
—応用が難しいということはどういうことですか?試合の中では使えないっていうことですか?
AT:同じパターンになることはほとんどないので、ボールの位置が変わればディフェンスの身体の向きも変わります。相手の利き足によっても変わるし。それが上手くできる選手とできない選手はいます。あと、声を出すのはディフェンスの時はすごく重要ですけど、攻撃の部分では逆に声を出さないほうが有利になったりするので、そのイメージの共有をしていく、みんなが同じイメージを持てるようになるといいと思います。
TK:代表では勝たなきゃいけないという部分もあるのでなかなか難しいですが、チームとして勝つことが大事な一方、同時にブラインドサッカーの可能性を追求していくチャレンジをしていきたい思いはずっとあります。お互いのイメージがシンクロしてこんなこともできるんだという瞬間がたまにあって、その時はゴールにならなくてもすごく嬉しい。それはフィールドの選手同士もだし、キーパーとの連携の中でもあります。一回、大介が何を思ったのかゴールスローでカーブをかけて、自分から離れていくようなボールを投げたのですが、自分もそこに入っていくイメージを持っていて、その流れでシュートが決まったことがありました。そういう瞬間はすごく嬉しい。これからたくさんできるといいですね。
—ブラインドサッカーというスポーツの可能性もまだ開拓できる余地があるわけですね。楽しみながら、単なる勝ち負けだけではなくスポーツ自体を作っている、そういう段階にあると思います。
TK:そう思っています。
DS:今日も試合中に、ヒナ、トモ、アキがゴール前に三角形を作ってそこにゴールスローを入れて、みんなが囲んでいるけど、トモさんがボールを持ってヒナさんとアキさんがガードしてトモさんがシュートっていうのをやってみようかなと思ったけど伝わらなくて。
TK:無茶やめようって(笑)。
DS:そういうことは試合中に思いつきます。みんながえっ、何これっ?ていうことを常に探しています。
AT:最初は、パスに関しても転がらないと聞こえないからみんな転がしていたんですけど、転がっていると相手にカットされやすい。でも浮かせれば、その間の音は聞こえない。浮き球のパスって海外では使われているし、国内でも増えてきている。味方のフリーキックの時も壁に入って邪魔をしたり、ほかにはドリブルしている味方に沿って走るとか、みんな色々考えてやり始めていて、ルールの中で新しい戦術を考えていくのは面白いです。
TK:プレーしていること自体も楽しいけれど、どうしたら面白いことができるか、いいプレーに繋がるか、それを考えることもまた楽しいです。
—どんどん進化して、10年後にはまったく別の、サッカーとは言えないスポーツになっている可能性もありますね、
AT:ヘディングしているかもしれない(笑)。