難発で言えない言葉があるとき、それを文字にして書くと言える。ならまだわかるけど、マサキさんの場合は、書こうとするだけでもう言える。 理由は、聞き手の視線がホワイトボードなりノートなりに移るので、ポン、と言葉が出てくる、と。なるほどー!と思わず頷いてしまいました。
マサキさんプロフィール
アパレル販売員時代に「どもる体」に出会い、
吃音との向き合い方に大きな影響を受ける。
働く中で、言葉以外の伝え方も模索してみたいと思うようになり退職。
写真、バックパッカー、デザインに挑戦。
◎まず土台から
伊藤 まず本を読んでくださってありがとうございます。普段、吃音の人と話す機会ってありますか。
マサキ ないです。当事者の集まりってあったりするんですか?
伊藤 あります。ただ、吃音の人に会うのはちょっと苦手っていう人も多いかもしれないです。
マサキ 自分も一回、当事者の集まりに一回だけ行ったんですけど、なんか違うなと思ってやめちゃいました。
伊藤 その「なんか違う」感っていうのは雰囲気とかですか?
マサキ 雰囲気だったり、あとは集まってお話しするみたいな会だったと思うんですけど、自分は、よくしたいと思っていたり、改善したいと思っていて。それで先生の本も読みました。熱が高まっているときに行って、自分の中にある上昇志向みたいなものと、参加されている皆さんの感じが合わなくて。「改善しなくてもうまく」みたいな感じの人が多かったので、行かなくていいかなと思いました。
伊藤 方向性的に違っていたんですかね。
マサキ 他の地域の集まりだと、もっと自分みたいな人が多いとか、県ごとに違いがあるという話も聞きました。
伊藤 なるほど。マサキさん自身の、よくしたい、改善したいというのは、具体的にどういうことですか?
マサキ 悪いと思ってるわけじゃないんです。当時はアパレルで働いていたんですけど、自分が入って何ヶ月か経って、働いている店舗が、直営店ではなく代行店に…
伊藤 書いて話したほうがいいですか?
マサキ いいですか?そのほうがスムーズだと思います。アウトソーシングっていうか、販売代行会社っていうのがけっこうあって、そこに移り変わったんです。自分もそのまま、いいやと思って、移り変わったんです。そしたら、そこから、働いてる人の意識とか変わるんで…
伊藤 確かに、意識の変化は大きいでしょうね。
マサキ 前のお店は、ちょっとカルチャーっぽい雰囲気というか、昭和の服屋さんという感じが強くて、そこに憧れて入ったんですけど、そこから本当、ビジネスな感じになって。
伊藤 サブカルからビジネス…すごい変化ですね。とにかく売るって感じということですか?
マサキ そうですねその代わりオペレーションが結構しっかりしてて、自分としては本当に働きやすかったですね。上司がめちゃめちゃいい人で、吃音のこととかは全部話してあって。そしたら「おまえこの道で生きていくんだとしたら、一回それちゃんとした方がいいよ」「どうするかっていうのは、頑張れるだけ頑張ってみたほうがいいよ」って言われて。その上司の親友みたいな人が、たまたま吃音だったんです。友達は販売員ではなくて公務員だったんですが。
伊藤 じゃあ上司は吃音についてもともと知っている感じだったんですね。
マサキ そういう人もいるっていうのを知っていたみたいで。それで、そう言われて、自分の中で一回めっちゃ落ち込んだんですけど、でも社会で生きていくうえで、これ一回頑張った方がいいんだなと思って、それで本とかないかなと思っているときに先生の本に出会ったんです。
伊藤 ありがとうございます。 最初に人に言われて、半強制的に自分の吃音との関係を見直してみよう、みたいなスイッチが入ったんですね。
マサキ そうですね。なんか、人として結構ダメダメだったんですよね(笑)。掃除とか苦手だったりとか、持ち物がちゃんと揃えてなかったりとか。そういう「自分に対して尊敬できる点」をもっと作っていけば、なんか外堀から埋めていけば、「話す」っていうことに対しての土台が上がるかなと思ったりして。そこをやっていこうと思って。
伊藤 なるほど。土台を作ると話せるんじゃないかっていう感覚があって、まず土台の部分を作っているということですね。土台というのは具体的に言うと…
マサキ 出勤するときも、前はロン毛だったんですけど、ぼさっとして帽子だけかぶっていく日が多かったんです。だけど、美意識というか、ちゃんと整えるということは、やっていけば自信みたいなものにつながるかな、と。
伊藤 面白いですね。しゃべるっていう本丸じゃないところから外堀を埋めていって、その上にしゃべるっていうことを乗っけていくみたいな発想ですね。なんか納得感ありますね。
マサキ たぶん皆さんスムーズにやっていることだと思うんですけど、なんか自分はそうした生活習慣が、あんまりちゃんとしてなかったんですよね。皆さんがなんとなくやっているところに対して、自分は「頑張るぞ」と思ってやらないといけない。
伊藤 小さい頃、どんなお子さんだったんですか?
マサキ スポーツをずっとちゃんとやってたんですけど…。種目でいうと、中学校まではサッカーで、高校からは陸上の長距離をやってました。長距離は5000メートルとかをやってました。
伊藤 私も陸上部で1500メートルをやってました。でも陸上ってけっこうストイックな人が多いですよね。それと、生活習慣が整っていなかったというさっきの話があんまり結びつかなくて…
マサキ スポーツだけ頑張る、みたいな感じでしたね。勉強とかもあまり根詰めてやったことは無くて。
伊藤 なるほど。結構スポーツに全乗っかりしてたような感じだったんですね。
マサキ 専門学校もスポーツ系でした。
伊藤 スポーツをやっていたときと、いまとでは、吃音の状態は変わっていますか?
マサキ けっこう変わってますね。話すような環境が違ったというか。高校とかまでの方がスムーズに会話できたかもなあ、と思います。小学校から吃音はあったんです。スポーツをしているときは、サッカー部だったらサッカー部の中で話す量が単純に多かったですね。上京してきてからは、一人なんで。
伊藤 サッカー部の時の方が一日に話す言葉の量が多くて、結構当たり前のようにしゃべってたってことですかね。
マサキ あとやんちゃしてる友達とかと一緒に遊んでたりしてると、ノリみたいなので話せるんです。自分のマインドがノってる状態で話せる。キャラ付けとかがちゃんとされていたんですよね。スポーツをやってるというキャラみたいなのがあったり、マインド的に自分の心が上にあがっていた時期なんで。
伊藤 ってことは今とだいぶ違うキャラーをまとってたという感じですか?
マサキ そうですね。「真面目」っていう印象はみんなからあったんですが、属しているのがサッカー部のノリの集団だったんで。
伊藤 サッカー部の中の真面目担当みたいな感じ?
マサキ でもたまにユーモアのセンスもある、みたいな。
伊藤 たまに言うことがすごい面白い人、みたいな。
マサキ そうですね、自分で言うのもアレなんですけど(笑)。
伊藤 なるほど。じゃあ言ったこともけっこうみんなウケてくれる、笑ってくれる感じだったんですね。
マサキ そうですね、ちょっとセンスで勝負してる感じでしたね。
伊藤 その人たちとは今は交流はないんですか?
マサキ 最近ちょっとそこ悩んでるとこなんですよ。交流ある人もいれば無くなっている人もいて。自分の考えがあってるか分からないんですけど、地元のコミュニティを抜けてこっちに出てきてから自分の人生がスタートした、みたいな感覚が強くあるんです。生活環境もガラッと変わったし、関わる人も変わったりしたので。自分の進みたい方向に向かって、環境とか構造をシフトしていかないと、100で寄せられないのかな、と。言語化が難しいんですけど。
伊藤 サッカー部の中でキャラ付けもされてて、けっこう話しやすかったっていう状況から抜けて東京に出てきて、またイチから人間関係を作り直すという感じなんですかね
マサキ 本当に知らない世界っていっぱいあるんだな、と思いますね。会社に入って、サブカル的なところからスタートして、本を読むようになったのが一番大きいですね。文化的なものというか、あ、こういう世界があったんだって、そこで初めて知ったんです。
伊藤 そのときはどんな本を読んでいたんですか?
マサキ 上司に「ちゃんとしたほうがいい」って言われたときだったんで、スタートは、啓発本とか、新書みたいな本ですね。そのあとに、小説を読むようになったんです。『金閣寺』を読んだのが自分としては大きかったですね。
伊藤 おお、吃音本ですね!
◎書こうとするだけでしゃべれる
伊藤 いま、症状としては難発があまりでなくて難発がメインですか?
マサキ 連発はあんまり出ないですね。難発ですね。
伊藤 言い換えはあまりしていないですか?
マサキ 言い換えは、いまお話しているときは、あんまりしていないですね。働いているときは、けっこう言い換えしてましたね。今は、内容がちゃんとそのままストレートに伝わったほうがいいのかなと思うんで、言い換えはしないでストレートにしたほうがいいのかなと思っているので、ちゃんと言うようにしてます。
伊藤 ありがとうございます。
マサキ アパレルで働いていたときは、雰囲気でいいんですよね。洋服が一番で、雰囲気をあとづけしてあげるという感じでいつも話していたんで。
伊藤 確かに必ずしも文章で話す必要もないですしね。
さっき、ノートに字を書いて示してくださいましたけど、書くと言えてませんでしたか?不思議ですね。
マサキ それあると思います。書くときとか、「書きます」って言ったときとかって、言えるんですよね。
伊藤 不思議です。
マサキ いま行っている学校でも、クライアントを想定してプレゼンをするんですけど、話せないのでホワイトボードを使ったりするんですと、「書きます」ってみんなに言ったときに言えたりすることが結構あって(笑)
伊藤 話すかわりに書いて文字で示そうとしているのに、書こうとするだけで言える、という(笑)
マサキ 「これに対していま話をしている」という共通の情報が目の前にちゃんとあって、それについてお互いが話している、という状況だと、心の余裕がひとつ出るんですよね。詰まったときも、相手が、「ああたぶんこれについて言おうとしているんだろな」という状況がとれると、すっと言えちゃったりします。
伊藤 なるほど。じゃあトピックが共有されていないところに、「これですよ」って出してくるのが苦手っていうことですかね。
マサキ それがすごく苦手なんだと思います。
伊藤 でもそれが「書きます」って言うだけで、共有される雰囲気になって言えるっていうのが面白いですね。
マサキ それはちょっとよくわかんないですね。書いて、それで言えるのは普通じゃないですか。でも書こうとして言えるっていうのは、何でだろうって思ったりしたんですけど、よくわからないですね。
伊藤 伝わらなかったらどうしよう、っていう心配がなくなるっていうことなんですかね。
マサキ そうなんですかね…よくわからないですね。
伊藤 いずれにしても、そんなことをいちいち考えてはいないということですね。
マサキ あ…みんなの視点が移り変わるという感じなんですかね。
伊藤 ほう!
マサキ 相手が「言葉で言ったものを受け取りますよ」ってなっている状態から、「書きますよ」って 言った時には、自分も余裕ができて、相手の視線もパッと変わりますよね。それでしゃべりやすくなるのかなといま思いました。言葉を出そうとしてるわけじゃないんですけど、無意識的に言葉がポンって出る感じがありますね。
伊藤 なるほど。確かにパワーポイントとか、そのもの自体を手にもっていたりして、tellじゃなくてshowの状況にしてしまったほうが、話しやすいというのは他の吃音の人からも聞いたことがあります。この時もみんなの注意がそのものに行ってるから、そこに言葉をつけていく、みたいな感じになりますね。それに近い感じかもしれないですね。
でも書くっていうのは思いつかなかったです。新しい技っていう感じですね(笑)。
マサキ 最初はプレゼンの準備をする余裕がなくて、ボードを使ったという感じだったんですけど。キーワードだけをいくつか書いて、「これがこうなって、こことここが…」って説明しました。
伊藤 しかもマサキさんは左利きですよね。左利きだと書いてる部分が微妙に見えないので、「何が出てくるんだろう」っていう気持ちになりますね。見てる方からすると、気になる感じがあります。
マサキ 内容的にはそんな大したことを言っていないと思うんですが、この前も「マサキくん、いいこと言うよね」みたいに言われたりしましたね。そういう雰囲気は作れているのかもしれないですね。
伊藤 お店の注文とかはどうですか?
マサキ しんどいですね。
伊藤 私はコンビニの、あの肉まんとかホットドックとかを頼めないですね…。
マサキ 頼めないですね…。
伊藤 名前はどうですか?
マサキ 名前は本当に苦手ですね。この前も学校の自己紹介があったんですけど、地獄でしたね。やけくそな感じで(笑)。
伊藤 日によって言いやすい、言いにくいの波はありますか?
マサキ 息の浅さ、深さ、が関係してますね。睡眠が足りないとしゃべりにくいですね。あとは、圧迫感が少ない服を着ているとき。あと白い服も言いやすくなりますね。
伊藤 白い服?
マサキ 白い服を着ていると、気分的にも開かれているというか。あと帽子かぶると圧迫感があって、よくないですね。
伊藤 なるほど。リラックスして、肺に空気が入りやすくするといい、ということですね。
マサキ 広がっているけど、腹筋が上に近づいている感じのときは言いやすいですね。
伊藤 すごい体の感覚に敏感ですね!スポーツをやっていたからですかね。
マサキ 我流でがんばるぞって思っていたときは、断食みたなことをしたりとか、糖質をあんまりとらないようにしたりしていましたね。腹が上に上がっている状態が一番いいですね。
伊藤 でも、どもっても表情はあまり変わらないですね。
マサキ そうなんですよ。わりとポーカーフェイスで(笑)。なんか、自分の中で、ちょっと当たり前になっちゃってる感じはありますね。パターン化されてきたというか。ここでこうなるっていうのがパターン化しているんで、言えないって状況に当事者意識があんまりなくなって。
伊藤 面白いですね。俯瞰している感じなんですかね?
マサキ たぶんそうですね。「前あったこういうパターンだな」「これはこういうふうになる」って考えられるようになれたっていうのが大きいかもしれない。
伊藤 なるほど。ということは、もちろんしんどいけど、いっぱいいっぱいっていうよりは、自分の吃音現象を観察対象みたいな感じで見てるんですかね。
マサキ 先生の本を読んで、面白いと思ったのはそれなんですよ。そういうふうに思っていくのもありだなって。
伊藤 ありがとうございます。今後、やっていきたいことはありますか?
マサキ 表現方法見つけていきたいですね。スポーツをやってきて、アパレルでは服が語ってくれて、いまは写真をとっていて。金閣寺を読んで、表現に昇華していけたらいいなって思っちゃったんです。それで写真が一番やりやすかったので。人物も風景も撮っています。この前もドイツ、ポーランドと一ヶ月ほど撮り歩いてました。フランクルの『夜と霧』を読んで行きたいなと思って。
伊藤 確かにあの、話をすることを通して知れるマサキさんもあるんですけど、写真があるとちょっとまたイメージが変わるというか。 こういうふうに見る方なんだなっていうなんか、納得する部分と、ちょっと意外な部分と、あって面白いですね。
2025/6/16 渋谷のカフェにて
