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ひなさん

感覚過敏のため、あらゆる音が無視できないひなさん。自分の声ですら気になってしまうことがあると言います。お話をうかがうと、「今聞こえている音」だけでなく「さっきまで聞こえていた音」が気になったり、「音源が自分でコントロールできると多少楽」だったり、さまざまな状況による違いが見えてきました。


ひなさんプロフィール

1999年千葉県生まれ。感覚過敏(特に聴覚過敏)を持っており、家にひきこもりがちな生活を送っている。

 

 

◎    相手の声:空調の音=6:4

伊藤 ここまで遠いっておっしゃっていましたよね。

 

ひな そうですね、一時間ちょっとくらいですね

 

伊藤 ありがとうございます。交通機関っていろんな音がするし、ストレスありますか?

 

ひな 途中でお昼ご飯を食べるために外に出たので、今回はちょっとは楽かなと思いました。

 

伊藤 けっこうストレスが蓄積していく感じなんでしょうか? 

 

ひな はい。

 

伊藤 具体的に、っていっても難しいと思いますが、どんな聞こえ方なんでしょうか?

 

ひな そうですね…。カクテルパーティ効果っていう効果がありますよね。パーティの中でも他の人の声が気にならない、無視できるから、自分のことが呼ばれても反応できる。でも私は他の音を無視できないんです。今も空調の音とか無視できていなくて、一対一ならそんなに話は難しくないんですけど、この状態で3人以上で話をしていったりすると混乱してきたりします。

 

伊藤 それは、3人以上の人が順番に話しても混乱するということですか?

 

ひな 順番…どうなんだろう、順番に話しているときはたぶん大丈夫だと思います。

 

伊藤 なるほど。ということは、ご飯のときの会話みたいに、わーっと玉入れするような状況だと、混乱してきちゃう?

 

ひな そうですね。

 

伊藤 それは、「まざっちゃう」ということなのか、「注意が分散しちゃって聞くべきものがキャッチできない」ということなのか…

 

ひな 分散しちゃってキャッチできないという感じだと思います。

 

伊藤 となると、今、私と話してくださっているのと空調の「シュー」っていう音が、何対何くらいの比で聞こえている感じですか?

 

ひな 伊藤先生の声が6くらい

 

伊藤 けっこう少ないですね!

 

ひな 空調の音に気をとられちゃってる感じですね。

 

伊藤 相手の顔を見るとか、工夫のしようはあるんですか?

 

ひな ためしたことはないんですけど、たぶんできない。

 

伊藤 いまは空調だけだけど、外だともっといろいろありますもんね。聞こえるときは、音源の位置も気になったりしますか。

 

ひな 音源の位置はあまり気にしたことはないです。

 

伊藤 ということは、注意が奪われるというのは、たとえば空調だったら、頭の上が気になる、みたいなこととも違うんですね。

 

ひな そうですね。空調だとそんなに気にはならないですけど、人の声とかただと、そっちが気になっちゃって、今のこの会話が成り立たなくなっちゃいますね。

 

伊藤 電車の中とか喫茶店みたいなところだと、相手の声が聞こえなくなっちゃう感じですね。

 

ひな そうですね。聞こえすぎて聞き取れない感じがします。

 

伊藤 疲れますよね?

 

ひな 疲れます。寝る時間も長くて、10時間くらい寝ちゃったりします。

 

伊藤 寝る時はすっと寝られますか?

 

ひな 一応薬を飲んでいて、その力で寝ている感じですね。

 

伊藤 電車の中のようなざわざわしているところで眠くなるということは…

 

ひな ないです。

 

伊藤 脳が興奮状態みたいになっているということですか?興奮しすぎてぼうっとしてくるということも…

 

ひな ないですね。

 

伊藤 いつも同じような聞こえ方ですか?

 

ひな 体調によって、すごく過敏なときもあれば、全然気にならないけど疲れがたまってくるとまたすごく過敏になってきたりすることもあります。

 

伊藤 疲れて元気がなくなると、いろいろ拾っちゃうということ?

 

ひな そうですね。

 

◎自分でコントロール音は多少まし

伊藤 聞こえ方の特性に気づいたのはいつごろですか?

 

ひな まず、小学校のときに不登校だったので、学校のようなざわざわしているところにはあまりいなかったんですけど、中学でたまに授業に出ると、けっこう荒れてるというか、やんちゃな子がいて、授業聞き取れませんけど、みたいな感じでした。別の理由で児童精神科に通っていたので、それを先生に話したら、それは聴覚過敏かもねって言われて。でもそう言われてもよく分からなかったです。でも高校生になって「カクテルパーティ効果」っていう概念を知ったときに、「あ、ほかの人ってほかの音を無視できるんだ」っていうのを初めて知って。だから自分で気づいたというより、他の人に言われて自分の状態を知ったという感じです。

 

伊藤 なるほど…でもお互いにどういうふうに聞こえているのか想像できないですよね。

 

ひな 学校に行けなくなったのも、行けなくなったのは別の理由だけど、教室に居続けることができないのは、聴覚過敏が影響していたのかなと思います。

 

伊藤 教室うるさいですもんね。特に苦手な音の種類はありますか?

 

ひな 子供の声とか、コピー機やシュレッダーのような機械の音ですかね。でも機械の音でも自分でコントロールできたら多少マシなんですよね。他の人が掃除機をかけていると耳をふさいじゃうんですけど、自分が掃除機をかけているときには、具合が悪くなったら止められるという安心感があるので、かけるときは何とか自分でかけます。

 

伊藤 へえ!コントロールできるかどうかによって聞こえ方が変わるんですね。面白いですね。

 

ひな 私の場合は、決まった「この音が苦手」っていうのもあるにはあるんですけど、ときと場合によって大丈夫な音があったりします。

 

伊藤 子供の声が苦手なのはなぜですかね。

 

ひな やっぱり声が高いのと、あとは泣き叫んでいるのとかを見ると「うっ」って来ますね。声の高さと大きさが影響していると思います。

 

伊藤 感情は関係ないんですか?子供が楽しくて大きな声を出しているときと、泣き叫んで大きな声を出しているときとで、違いますか?

 

ひな どっちも苦手ですね(笑)

 

伊藤 メールに「職場の人の声が苦手だ」と書いてあったんですが、それは大人ですよね?

 

ひな 大人の男性なんですけど、他の方もちょっと変わった声だなと聞こえていたみたいです。私には「おしりかじり虫」」の声に聞こえていました。その人がしゃべり出した瞬間に注意がそっちに行っちゃって、他のことができなくなっちゃう。

 

伊藤 なるほど…。引きが強い声みたいな感じですかね。声が大きいわけではないんですよね?

 

ひな そうですね。

 

伊藤 ご本人には伝えたんですか?

 

ひな 伝えられなかったですね(笑)。声で面白いなと思うのが、自分の声すらダメな時があって。

 

伊藤 そうなんですか!

 

ひな ミーティングで司会をやったことがあるんですけど、声を張るので、それで自分の耳がやられちゃって1時間くらい頭痛が止まらなかったです。

 

伊藤 それはしゃべっているときに自分の声に意識が行っちゃうということですか?

 

ひな そうだと思います。だから他の人が意見を行ってくれたりして、頭に入ってこなかったりするんです。

 

伊藤 自分がしゃべっているときじゃなくても、「さっきの自分の声」に意識が行っちゃうんですかね。

 

ひな そうです。

 

伊藤 自分の声が頭蓋骨の中でわんわん反響している感じ?それとも、音が来るのを待っちゃう、みたいな感じですか?

 

ひな 反響までは行かないけれど、耳の中に残っている感じですね。

 

伊藤 いつもより声を張っていたとか、緊張していたこととかが関係しているんですかね?

 

ひな いつもと違う自分の声に慣れなかったことも関係しているかなと思います。

 

伊藤 でもふだんこうやって話していらっしゃる声は、すごく聞き取りやすく話していらっしゃるなという印象があります。それって聞こえと関係しているんですかね?

 

ひな 声は、まわりの人からも、通るし聞きやすいと言われるんです。でも自分ではよく分からない…

 

伊藤 すごく澱みなくお話しされますよね。私の声は大丈夫ですか?

 

ひな 大丈夫です。念の為前もってラジオを聞いておきました(笑)

 

伊藤 よかったです。逆に、家以外で一番楽な状況はどういう状況ですか?

 

ひな 家以外に居心地のいい場所ってなさそうな気がします。家も、自分の部屋だったら安心できるけど、リビングに行くと誰かしらテレビをつけていたりゲームをしていたりするので、それが気になることもあります。

 

伊藤 やっぱりコントロールできるというのが大きいですかね。自分の部屋でクーラーがついていても大丈夫ですか?

 

ひな その状態で昼寝してくださいと言われたら、たぶんできると思います。家以外の場所で同じ条件だったらできないけど、家だったらたぶん大丈夫です。

 

伊藤 自分の部屋にいて、急に窓を「キーッ」ってやられたらどうですか?その部屋は信じられなくなりますか?

 

ひな そういうこと、ありますね。セミが止まって鳴いていたりすると…

 

伊藤 セミはかなり音が大きいですからね。お風呂みたいな音が響く環境はどうですか?

 

ひな 昔、体調が悪いときに、シャワーを出している音がだめでしたね。

 

伊藤 なるほど…。体調の変化はどのくらいの周期でやってくるものなんですか?一週間単位で変わるのか、それとも一ヶ月くらいなのか…

 

ひな まず1年のなかで季節の変わり目は、精神的にあまり体調がよくない状況になって、そうすると耳の方も過敏になります。年齢的には、高校生のときは一番耳が過敏だったんですけど、今はそこまで体調が悪くはなくて、気持ち悪くなることも少なくなりました。高校生のときはずっと船に揺られているような感じでしたね。

 

伊藤 いま比較的体調がいい原因は何かありますか?

 

ひな 自分なりの対処法を見つけられたからだと思います。高校生のときは、ガラケーだったので音楽を聴く方法がなくて、通学で電車に乗るときも紛らわせることができなかった。でも今はスマホになって、ノイズキャンセリングのイヤフォンを使えば電車に乗れます。あとは自分で自分をケアするためにいろいろためして、それが体調の安定につながっていると思います。ストレッチしたり、音楽を聴いたり、お茶の飲み比べをしたり…。「セルフケア」で検索して出てきたものを片っ端からやっていました(笑)。お茶の飲み比べは、違いはわからなかったんですけど、飲み物を飲んでほっとする時間を作るというのはよかったかなと思います。

 

伊藤 なるほど。いつもけっこう緊張している感じなんですかね。

 

ひな そうですね。外でお茶を飲むときは、飲んだらすぐ出てきます(笑)

 

◎音は「常に隣にいてじっとこちらを見てるもの」

伊藤 今日、お昼をめしあがったお店は初めて行ったお店ですか?

 

ひな 初めてです。けっこうドキドキしました。厨房の近くの席だったので、お皿のカシャカシャいう音がすごく気になりました。食べたらすぐ出てきました(笑)

 

伊藤 聞こえちゃうということは、ぼーっとできない、休めないということですね。常に耳が仕事しているわけですね。

 

ひな そうですね。

 

伊藤 自然の中はどうですか?人工物はないけど、葉っぱの音とか鳥の声とか、音はある場所です。

 

ひな ハイキングに行ったことがないんですけど…行ってみないと分からないですね。

 

伊藤 カーテンがしまっていたりして反響が変わると、楽になったりしますか。

 

ひな 布はあまり関係ないですね…

 

伊藤 これまで一番つらかった状況はどんな場所ですか?

 

ひな 体育祭のときとか、文化祭のときとか、人が多くて音も大きいときが、一番つらいですね。応援合戦とかあるじゃないですか。「何か言ってるけど何言っているんだろう」って思いながら見ていた記憶があります。

 

伊藤 周りに音がたくさんあるから入って来なくなるということですか?

 

ひな 音としては大きく聞こえているんだけど、何言ってるか分からないですね。一応そこにはいるんですけど、魂はどっかに行っているような感じでしたね。家に帰ったらバッタリ倒れていましたね。

 

伊藤 聞こえの問題ってパッと見では分からないことが多いと思うのですが、結構自分から伝えてきましたか?

 

ひな 職場では言ったんですが、けっきょく自己対処でしたね。高校では耳栓を使っていいか聞いたんですけど、授業中にすると聞こえなくなっちゃうので、特に対策というわけでもなかったですね。

 

伊藤 対処のしようがないことが多そうですね…。職場でコピー機を使う前に声をかけてもらう、みたいなことは意味がありますか?

 

ひな 心の準備はできるかなと思います。でもいつ終わるのか分からないのはあまり変わらなかったります。

 

伊藤 電話はどうですか?

 

ひな 電話が鳴るのはけっこう苦手ですね。

 

伊藤 電話越しに話すのはどうですか?

 

ひな ちょっと苦手だったんですけど、最近慣れてきました。前は、電話が鳴るといったん耳を塞いでいました。電話をとって話してメモを取ったりするんですけど、切ると「あれ、何の話だったっけ?」みたいになっちゃう。メモがなかったら、「何か話してるな」で終わっちゃう。会話はたぶん成立しているとは思うんですけど…。

 

伊藤 なるほど。いったん電話の音を聞いちゃうとそうなるわけですね。

休みの日は何をしていますか?読書など、趣味はありますか?

 

ひな 読書が好きで、あとは何かを作るのが好きです。絵を描いたり文章を書いたりします。小説とエッセイをブログに公開しています。

 

伊藤 文章はを書くのはけっこう集中力がいると思うんですけど、聴覚ではないものに集中力を向けるのは楽しいことですか?

 

ひな 他のことに意識がいっちゃうので、500字書いたら今日は終わり、みたいな感じになっちゃいますね。結構時間かかっていますね。

 

伊藤 それは書くことが思いつかなくなるということ?

 

ひな というより、10分くらい経つと他の音が耳に入って、「そういえばあれやってなかったな」と他のことに意識がいっちゃいます。

 

伊藤 聞こえ方が人間関係に影響することはありますか?

 

ひな お店に行って飲食するのが難しいので、どっかに食べに行こうよと誘われても、行けないんですよね。遊びに行くのも近場しか行けないので、友達がすごく少ないです。そもそも友達とは長電話はするんですけど会わないですね。あるいはSNSのコメントでちょっかいを出すみたいな感じです。

 

伊藤 Zoomはしないですか?

 

ひな Zoomの音は苦手ですね。ロボットと会話している感じですね。

 

伊藤 瞬間移動できるならどこに行ってみたいですか?

 

ひな 北海道ですかね。北海道に行くには、新幹線もあるけど、基本は飛行機じゃないですか。飛行機は小学校の低学年以来乗っていないんですけど、たぶんうるささに耐えられないと思います。

 

伊藤 他の感覚に対する敏感さはないですか?

 

ひな 嗅覚はけっこう敏感らしいということが、他の人から言われて気づきました。嗅ぎ分けられるというか、強く感じるという敏感さです。排水溝の掃除をしていない、とかが一発で分かります。高校生のときは柔軟剤の匂いのせいで人に近づけなかったことはあります。

 

伊藤 ひなさんにとって音とはどういうものですか?

 

ひな 私にとって音って完全に無になる瞬間がないので、常に隣でじっと見られているような感じはありますね。となりにいて、じっとこっちを見ていて、こちらのコンディション次第で、「まあいっか」と思えることもあれば、「ちょっとどいてよ」と思うこともありますね。

 

伊藤 「常にある」ということなんですね。前から面と向かってくるというよりは、横なんですね。

 

ひな とにかく自分の近くにある感じですね。

 

伊藤 1時間くらいお話してきましたけど、空調の音はやはり6:4で聞こえていますか?

 

ひな 聞こえていますね。

 

伊藤 この部屋を出たあとも残りますかね?

 

ひな 残ると思います。

 

 

 

 

2024/7/22 東工大大岡山キャンパスにて